全国に289ある衆議院選挙の小選挙区の中で、候補者が1人しか動いていない選挙区がある。高市早苗首相(64)が出馬した奈良2区だ。立憲民主党が公明党と一つになった中道改革連合は候補者を立てず、高市氏の対抗馬は共産党候補が1人だけ。当選が確実な高市氏は全国を飛び回って地元入りせず、選挙の雰囲気はほとんどない。有力野党はなぜ直接対決をしなかったのか。
選挙カーの姿も見えない奈良2区、高市首相に挑む唯一の存在
「高市首相と一騎打ちです。統一教会、政治とカネの問題、首相の名前が上がってきて追及されれば支持が下がっていく。(首相は)支持の高いうちに総選挙に出て自民党で過半数を取る思惑であります」
2月1日、天理市内でマイクを握った共産党の池田英子氏(59)には10人の支持者が声援を送ったが、周囲は閑散としヤジを飛ばす人もいない。
奈良2区である県中部の天理市や大和郡山市を歩いても選挙カーにはほとんど出会わない。候補者のポスターが2枚張られた掲示板だけが、選挙期間中であることを感じさせる。
高市氏と戦うのが自分しかいない選挙をどう思うか尋ねると池田氏は、
「他の党はどんどん右へ右へと流れていって自民党と同じような政策を言ってたりします。正面からぶつかる気がないってことでしょう」
と他の野党に批判的だ。
奈良2区はどのような選挙区か。地元関係者が話す。
「自民に遠慮して公明党がずっと候補を立ててこなかった選挙区です。世襲でない高市さんは、若手のころは、それこそ共産党がやるような10人以下のミニ集会を頻繁に開き地道に支持者をつくってきた印象です。大臣になって地元入りが少なくなると、今は地元の秘書がものすごくマメに動いています」
高市氏は2009年の衆院選小選挙区で苦杯を飲み、比例で復活当選したが、その後は小選挙区でも安定した強さを見せてきた。
4人が立候補した2024年の総選挙では約12万8千票を集め、約3万6千票を集めた立憲民主党候補や約3万4千票の維新候補、約1万4千票の共産・池田氏を寄せ付けなかった。
そして首相になって初となる今回の選挙。高市氏は地元で2つの目標を設定しているとの声がある。
「史上空前の20万票を取りたいと考えているようです。同時に前回立憲民主党(当時)の馬淵澄夫氏(65)が小選挙区で勝った奈良1区(奈良市など)を奪還し、自民が県内3つの選挙区を総取りすることも至上命令にしているようです」(地元政界関係者)
「候補者を見つけられなかった」野党第1党が語る不出馬の理由
野党第一党も第二党も対立候補者を立てず前回得票率が7%弱しかない共産党の候補だけが立った選挙。
法隆寺に近い国道沿いに構えられた高市氏の事務所へ向かう道中、タクシー運転手の男性は「(高市氏が)事務所を構える必要があるの? 結果はわかっているから街は盛り上がってないよ」と話した。
天井まで応援の為書きがびっしり張られた高市氏の広い事務所で、関係者は「目標20万票? いえ、そんなこと考えていません。中道さんや国民民主党さんが候補者を立てなかった理由は向こうに聞いてください。私らは(候補者)本人がいない状態でやることをやるしかありません」と話した。
高市氏については、旧統一教会系の組織がパーティー券を購入したり、パーティ券購入者の一部を政治資金収支報告書で隠したりしたことを示す「裏帳簿」の存在が分かったりしたと1月29日発売の週刊文春が報じている。文春報道の影響を聞いても「全然わかりません」とだけ返ってきた。
中道の考えはどうか。党の共同選挙対策委員長を務め、今回も奈良1区で出馬している馬淵氏が1月31日に駅前に立ったところで声をかけた。
――奈良2区で中道が候補者を出さなかった理由を説明してください。
候補者を見つけられなかったんです。前回立候補した人は都合がつかず、代わる人を見つけられなかったということに尽きます。
――政権交代を訴える野党第1党が首相の選挙区に立候補者を出せなかったことになります。
政権交代を訴えているというのはちょっと違うと思いますけどね。いや気概はそうですが、訴えてるのは政策の実現です。
――出せなかったことに対し、有権者に一言あってもいいのでは?
そう言われても、立候補の意思を持つ方がいなかったらどうすることもできないですよね。選挙権、被選挙権は憲法で保障された権利で、それを強制的にやるってのは違いますもんね。僕らはもうやるだけのことはやりましたけども叶わなかったんです。

