
韓国の高麗大学(Korea University)などで行われた研究によって、「金のナノ粒子をぎゅっと固めたミクロサイズの超球(スープラボール)」を並べた黒いフィルムが、太陽光の主要な波長域の約9割を吸収し、市販の熱電発電モジュール(温度差で電気を生む素子)の出力と効率を従来の金ナノ粒子フィルムに比べて約2.4倍に押し上げることが示されました。
もしこの成果をうまく応用できれば、新しい半導体を発明しなくても、「コーディングを塗り替える」だけで、太陽熱電発電や太陽熱利用システムの効率をまとめて底上げできるかもしれません。
しかし金の球がなぜそれほど光を吸収できたのでしょうか?
研究内容の詳細は、2026年1月5日に『ACS Applied Materials & Interfaces』にて発表されました。
目次
- 太陽光の半分が見逃されている
- 太陽光の9割を吸収できる「極小の金の球」
- 同じ金でも世界は変わる “並べ方の科学”がひらく太陽エネルギーの未来
太陽光の半分が見逃されている

私たちの頭上には、毎瞬約8万〜9万テラワット規模の太陽パワーが降りそそいでいると言われます。
地球全体のエネルギー需要をはるかに超える量です。
それなのに、屋根の上の太陽電池パネルや黒い集熱板は、その恵みのかなりの部分を「見ないふり」をして流し続けています。
その理由のひとつは、太陽光の中身にあります。
太陽光は、目に見える「可視光」だけでなく、人の目には見えない「近赤外線」もたくさん含まれています。
標準的な太陽光のエネルギーのうち、可視光はおおよそ半分弱、残りの半分以上を近赤外線が占めます。
ところが一般的なシリコン太陽電池は可視光の一部には強く反応できても、この近赤外線のかなりの部分を活用できていません。
コラム:太陽の“見えない光”ってどれくらいあるの?
地表に届く太陽エネルギーの内訳を(たとえば標準的な太陽光スペクトルAM1.5Gを目安に)みてみると、可視光は43%(400–700 nm)/近赤外線は52%(700–2500 nm)そして紫外線は意外にもたった5%(280–400 nm)しかありません。この数値からわかるように地表に届く光は近赤外線と呼ばれる領域にたくさんのエネルギーが詰まっています。
この「取りこぼし」を埋めるために、市販の太陽熱電発電装置(熱を電気に変えるタイプの太陽光発電)などでは表面を黒く塗る「黒いコーティング(カーボンブラック)」が使われていました。
「黒色」の物体は光を吸収しやすいからです。
より科学的に言えば、カーボンブラックは光を受けるとカーボンの原子たちが激しく揺れ、その揺れ(熱)が熱電発電モジュール(温度差で電気を生む素子)に伝わって電力へと変換されます。
とはいえ、普通の黒ペンキはまだ表面で反射する光も多く、特に近赤外線(人の目には見えないがエネルギーが大きい光)を十分には吸い切れません。
そこで次に登場したのが、金や銀のナノ粒子を使った黒いコーティング剤です。
これらの金銀のナノ粒子は粒の表面にいる電子が光の波のリズムに揺すられて共鳴を起こすことでより大きく振動します。
電子が強く揺さぶられると、そのエネルギーは最終的に粒子内部の原子の揺れに変わり、「電子のゆれ ➔ 原子のゆれ ➔ 熱」となって、その下の太陽熱電モジュールに熱が伝わり発電が強化されます。
コラム:「太陽光発電と太陽熱発電」
屋根の上のシリコンパネルが行っているのは、太陽光発電です。光のエネルギーをそのまま電気に変えるしくみで、パネルに光が当たるとシリコンの中で電子が動き、コンセントから使える電気になります。一方、太陽熱発電は、まず光を「熱」に変えその熱を使用して電気が生まれます。つまり、太陽光発電パネルは「光→電気」、太陽熱発電パネルは「光→熱→電気」という流れです。また大規模な太陽熱発電施設では「いわゆる発電パネル」ではなく大きな鏡で太陽光を集めて油や溶融塩を高温にし、その熱で水を沸かして蒸気タービンを回して発電する場合もあります。
このしくみを使うと、普通の黒ペンキよりも広い色の範囲の可視光をぐっと強く吸い込み、熱としてデバイスに送り込むことができます。
ただし、既存の金銀ナノ粒子の得意分野はどうしても可視光寄りに集中してしまい、太陽光の中で大きなエネルギーを担う近赤外線を「広い範囲で根こそぎ飲み込む」ことはまだ苦手なままでした。
そこで今回研究者たちは、「材料そのもの」ではなく「ナノ粒子の並べ方」を徹底的に設計し直し、可視光だけでなく近赤外線までまとめて飲み込む、新しい金ナノ粒子の超球構造を作れないかと考えました。
本当に並べ方の工夫だけで、発電能力をあげられるのでしょうか?
太陽光の9割を吸収できる「極小の金の球」

並べ方の工夫だけで、発電能力をあげられるのか?
答えを確かめるために、研究者たちはまず、金ナノ粒子を「球の中にぎゅうぎゅうに詰め込んだボール」に変えるところから始めました。
難しそうに思えますが、基本は海水を蒸発させて塩の結晶を作るのと同じです。
かなりザックリ言うと
①金ナノ粒子を水に分散させる
②水を乾かす
③水がなくなるにつれ金ナノ粒子が押し合いへし合いする
④最後に結晶のように規則性を持つ金の超球が出現する
というものです。
顕微鏡を使って超球を拡大してみると、一粒一粒の金ナノ粒子が六角形のタイルのようにびっしり並び、球の内部までほとんどすき間なく詰まっていることがわかります。
この状態になると、容易には崩れなくなります。
そこで研究者たちは超球をもう一度水の中に流し込み混ぜました。
すると見た目は真っ黒なインクのような状態になります。
研究者たちはこの液体をガラス基板の上に何度も垂らして数マイクロメートルの厚さの「超球フィルム」を作りました。
このフィルムに標準太陽光(AM1.5G)に相当する光を当てたところ、可視光から近赤外線までのエネルギーの平均約89%を吸収していることがわかりました。
一方、同じかそれ以上の量の金ナノ粒子をバラバラのままフィルムにした従来型の膜では、吸収できるのは平均約45%にとどまりました。
つまり、同じ材料(どちらも金)でも並べ方を変えただけで「吸える光の量」がほぼ2倍になったのです。
さらに研究チームは市販の熱電発電モジュールの上面に、1センチ四方だけ超球フィルムを塗り、太陽光シミュレータを当てて発電性能を測りました。
その結果、従来の金ナノ粒子フィルムを塗った場合は最大出力密度が0.123ミリワット毎平方センチメートルだったのに対し、超球フィルムでは0.292ミリワット毎平方センチメートルまで増加し、光から熱を経て電気に変わる全体の変換効率も約0.128%から0.303%へとほぼ2.4倍になりました。
では、なぜ丸い「超球」にするとここまで太陽光を吸えるのでしょうか。
研究チームの解析によると、ポイントは殻と中身で役割がちがう二重構造にあります。
超球の表面近くでは、金ナノ粒子どうしが数ナノメートルのすき間をはさんで並んでいて、その細いすき間で光が熱になりやすくなります(金の電子が光に共鳴して揺れる現象)。
一方、超球の中のほうでは、びっしり詰まった金の粒が、まるで「とても光を曲げやすいガラスのかたまり」のようにふるまいます。
そこに近赤外線(目には見えないけれどエネルギーの大きい光)が入ってくると、光が球の中で行ったり来たりしながら立ち波のような状態になり、ぐるぐる閉じ込められてしまいます。
さらに、この金の超球をたくさん積み重ねて、少し厚みのあるフィルムにすると、入ってきた光は球と球のあいだで何度も跳ね返されながらさまよいます。

