放送中のドラマ『北方謙三 水滸伝』。劇中で棒術の達人、史進役を務める俳優・木村達成さんが原作小説を読んでみたら…。「頭蓋から両断」という衝撃的な描写に度肝を抜かれながらも、最小限の文章で登場人物の「渇き」を描き分ける北方文学の凄さを実感。実際の撮影現場では殺陣のシーンで傷だらけになりながらも、「史進が流れ込んできた」瞬間を体験した熱い舞台裏を語った。
初めての“北方水滸伝”
──北方謙三さんの作品を読まれたのは今回の『水滸伝』が初めてだそうですね。いかがでしたか。
木村達成(以下同) 僕はもともとあんまり小説を読むタイプじゃないんです。子どもの頃も外で遊ぶのが大好きだったほうなので。
『水滸伝』を読み始めた時も、正直、最初はちょっと読みづらいと思いました。1巻読み終わるまでにどれくらい時間がかかるんだろうと不安で。でも、だんだんと物語にのめり込んでいって、読むスピードが上がっていきましたね。
──北方さんはそぎ落とした文章で人物を立たせていきますよね。登場人物たちのエピソードがそれぞれ面白くて。
出てくる男たちがみんな「渇いている」と思いました。とくに最初のほうは潤いを求めて彷徨っているようなイメージですね。求めているけれど得られていない。素朴な感想ですけど、こんなにたくさんの男たちの渇きが書き分けられているのはすごいことだなと。
──しかも最小限の描写で想像させる。印象に残っているフレーズはありますか。
各章の最初の一行がどれも印象的ですね。第一章(天罡(てんこう)の星)の書き出しが「頭ひとつ、出ていた」。魯智深(ろちしん)のことなんですけど、パッと大男のイメージが浮かびました。次の章(天狐の星)の「古来、塩の道というものがある」という書き出しも好きですね。塩の道ってどんなものだろうって興味をそそって。
第三章(天罪の章)は「舳先に立っていると、さすがに風が冷たかった」。前章とがらっと場面が変わって、河の上。船で荷物を運ぶ阮小五(げんしょうご)の話にすっと入っていく。情景が思い浮かんで、世界に没入できるんですよね。
──1巻で印象深い場面はありますか?
林冲(りんちゅう)と張藍(ちょうらん)のシーンですね。林冲が妻の張藍が浮気をしているんじゃないかと吹き込まれて、家に帰ってくると男と二人きりの張藍がいた、という場面なんですが──
『何者だ』
言うと同時に、林冲は剣を抜き放っていた。
待てという男の言葉と、あなたという張藍の叫びが重なった。次の瞬間、林冲は男の躰を、頭蓋から両断していた
(北方謙三『水滸伝』第一巻「曙光(しょこう)の章」集英社文庫 p.89)
頭蓋から両断ってどういうこと? って度肝を抜かれました。林冲の剣の冴えもすごいですが、何の躊躇 ( ちゅうちょ)もなく一瞬で決断しているってことですよね。
──心情をくどくど説明するような文章はないんですよね。
だからこそどんな気持ちだったんだろうって考えるんでしょうね、読者は。その代わり、どんな動きをしたかが目に浮かぶように書かれているから想像できるんですよ。
小説と台本から見えてきた史進(ししん)
──『水滸伝』の第一回目の撮影を終えたばかりだそうですね。撮影に入る前に準備されたことはありますか。
まずは小説と台本を読むことですね。漫画だと登場人物の表情まで描いてあるので役をイメージしやすいんですが、逆に言えば先入観になってしまう。今回は小説と台本、つまり文字だけから想像して史進のキャラクターをつくり上げようと思いました。31歳の役者として、イメージをふくらませるところから役づくりをしてみたくて。漫画は撮影後に楽しむつもりです。
──小説と台本を読まれて史進の印象はどうでしたか。
役柄の説明を受けた時には、ばか強い若者。でも幼心も持っている、真っすぐな青年だと聞いていました。
小説と台本を読んでいてもその印象は変わりませんでしたね。史進は本当に真っすぐなんです。分からないことがあったらなんでも素直に聞くようなタイプ。何で? どうして? って。そういう子どもみたいなところがある、教えてほしい若者なんですよ。でも周りに真剣に向き合ってくれる大人がいなかったから、どんどん乱暴者になっていった。
父親がお金で雇った先生たちは、史進を褒めそやすだけで、手を焼くことがあっても叱ったりはしない。史進は本当の「師」がずっと欲しかったと思うんです。自分を叱ってくれて、どんな質問にも真剣に答えてくれる本当の師が。王進(おうしん)先生はまさに理想の師。史進は、王進先生のような人を求めていた若者なんです。
──乱暴者なんだけど、おぼっちゃまなんですよね。
現代でもいますよね? そういう人って。恵まれて育ってるのにヤンチャしてるみたいな。
でも、父親の史礼(しれい)には反抗していないんです。金で雇われた先生たちに反抗している。お金のためじゃなくて、本気で自分と向き合ってくれているのか、と史進は言いたかったんだと思いますね。

