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プロ野球球団消滅の危機を救ったのは一人の裁判官だった…古田敦也と渡辺恒雄が対峙した2004年「奇跡の決定文」

プロ野球球団消滅の危機を救ったのは一人の裁判官だった…古田敦也と渡辺恒雄が対峙した2004年「奇跡の決定文」

「裁判官の良心」と「3つの信条」

「あれは選手会会長の古田敦也対NPBの根來泰周コミッショナーとそのバックの渡辺恒雄読売新聞会長の対決だったわけです。

私は民事を裁く上で指針にしている『裁判官の良心』として、争う二者を3つの信条に照らし合わせて判断しています。それは問題に対して『正直なのか』、『誠実なのか』、『勤勉なのか』の3点です。

正直さで言えば、二者ともに嘘をついているわけではないから、そこはイーブン。野球で言えば、表も裏も無得点。次の誠実さについては、古田さんが圧倒的に示していた。彼自身は別に球団合併となっても損するわけじゃないし、年俸が下がるわけでもない。

しかし、一球団の選手がクビになって 球界が縮小するのが許せないという非常に真面目な問題意識で経営者側との対話を求めて新聞にも投稿していた。一方でNPB側はその対話の呼びかけに対してあの『分をわきまえなきゃいかん。たかが選手が』という発言が渡辺恒雄氏から出た。

普段は選手によって儲けさせてもらっているにも関わらず、これはあまりにも不誠実な態度でした。選手会に軍配です。

最後の勤勉についても同様で、プロ野球のトップ選手である古田会長はキャッチャーという重責を担って試合に出ながら、問題解決に向けて折衝に臨み続けていた。私もすごい驚きだったんですよ。世の中にこんなに勤勉な人がいるんだってね。

一方で当時のコミッショナーは球界の最高権力者でありながら、『自分には権限がない』と言って、公の場に出ようともしなかった。

怪文書のことは、私は当時知らなかったのですが、それだけで自分の地位の否定です。自分の損得抜きに権力に向かっている人に対して、法の番人ながら、団体交渉に向き合おうともしない人では、結論はもう見えていました」

こうした結果を踏まえれば、選手会に逆転勝訴という決定を下すことが自然であったようにも思えるが、それを竹内はしなかった。

NPBに時間稼ぎをさせないためあえて控訴を棄却

「もしも選手会を勝たせれば、NPB側が最高裁に抗告することは目に見えていましたからね。そうなれば、最高裁までいって時間切れです。新球団の参入審査など、間に合わなくなります」

竹内は球界再編問題の本質を掴み、9月3日の金曜日に受けた選手会の抗告に対して休日を返上して土日に出勤を続け、6日と8日には抗告棄却の決定を下すと同時にこの短期間で事態を前進させる決定文を出している。この超スピード審理は一般紙のみならず法律誌でも高い評価を受けている。

NPB側は自分たちが勝ったことで、時間稼ぎの最高裁への抗告はできなくなり、不当労働行為の警告を受けたことで、それまで避けていた団体交渉に向き合わざるを得なくなった。

自身も野球を愛している竹内は当時、選手会が球団合併反対の署名を集めているというニュースを見聞きしており、裁判所に持って来てくれるものと思い込んで待っていた。

「でもその署名がNPBに行ってしまったのでガッカリしたものです」

ちなみに竹内は、生粋の田尾安志(中日、西武、阪神でプレー、後に楽天初代監督)のファンで1982年のセ・リーグ優勝を決める最終戦での田尾の5打席連続敬遠を横浜球場で見ている。

もちろん野球好きだから、選手会に有利な動きをしたわけではない。竹内の思考の源は憲法76条3項「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」にある。

「まず法律ありきではないのです。裁判は良心に基づいて勝たすべき方を勝たせるべきで、その理由をどうするかというのを緻密に法律論として建てることが裁判官としての仕事。だから僕は裁判とは、いい意味で結論が先にあって、その後に判決を出すというのが、逆転しているように見えて 1番正しい裁判ができると思っています」

こうした裁判官の良心に基づかず、保身から事なかれ主義に陥って、過去の類似事案の上級審の判例を検索してそこから判決を導いて「一件落着」、判例主義で処理件数を稼ぐ裁判官を竹内は「上ばかり見ている『ヒラメ裁判官』」と呼称する。それならば、裁判官はAIで良いではないかと言う。

竹内は選手会の申立てが自分の受け持つ高裁に上がってくるのを待っていたという。すでに野球協約の条文も統一契約書も深く読み込んでいる。あとは良心について動くだけだった。

ここで一つの仮定に思い至る。もしも竹内が弁護士任官制度で裁判官になっていなかったら。弁護士出身の裁判官の輩出は日弁連の悲願でもあるが、まだまだその数は少なく、竹内によれば「現役裁判官の数の50分の1」だという。

もしも東京高裁でこの労使交渉の担当が別の裁判官になっていたら、抗告棄却の判決のみが残り、最高裁で時間切れとなっていたのではないか。

球界を激震が襲った2004年は稀代のリーダーシップの持ち主、古田が会長職にあり、彼の申し立てが50分の1の確率で竹内裁判官にあたった。これも野球の神の配剤だったのだろうか。

文/木村元彦

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