つげ義春と水木しげる
――仕事以外で水木さんと一緒にどこかに行ったりは?
なかったですね。水木さんは僕よりかなり年上だったし、共通点はホントに何もなかったから。共通の興味とか会話の話題もなくてね。水木プロ内でも、話すのは全部仕事についてでした。水木さんも静かなタイプですし。
(浅川満寛)でも、一度水木プロで旅行に行ったことがありましたよね。
ああそうね、行きました。北温泉(訳注=栃木県那須町)にね。
(浅川)つげさんと水木さんは性格的にもかなり対照的ではないですか? つげさんは真面目な、物事を深刻に捉えるタイプですが(笑)、水木さんはわりと楽観的で。
そうでもなかったですよ。水木さんは普段おどけて見せてたけど、実際はすごく繊細な人でしたから。
(浅川)実際、つげさんは水木プロではキャラクターを描くだけじゃなかったんですよね。当時、『ゲゲゲの鬼太郎』はアニメにもなってたし「少年マガジン」で週刊連載されてましたから、水木さんは毎週の締め切りに追われていて、ストーリーのアイディアがでなくなるとつげさんに助けを求めたと池上遼一さん(訳注=当時、水木プロのアシスタントの1人だった)から聞きました。「ゲゲゲの鬼太郎」のストーリーの中には、つげさんが考えたものもあるかもしれませんね。
――2019年から、あなたの作品はフランス語と英語の両方に翻訳されます。かなり長い待ち時間でしたが。
なんでそんなに時間がかかったかですか……これは説明するのが難しいね……。僕はずっと人から注目されるのを避けてきたんですよ。脚光を浴びるのが苦手でね。静かに過ごしたかったんです。日本語で言うと「いて、いない」と言うんですが……。社会と関わりを持たずに隅っこの方に暮らして、とにかくほとんど目立たないようにという。
12時間くらい布団に入って…でもそれも悪くない
――あなたが生み出した多くの物語の中で、特に好きなものはありますか?
うーん……これまた難しいね……。だってもう頭が老化しちゃって、どんどん忘れちゃうから(笑)。
――(旅行中に撮った写真を何枚か見せながら)どうやってこの写真(温泉にいる裸の中年女性のグループが写っている)を撮ったんですか? つまり……あなたは男性ですから。
実は、この写真を撮ったのは女房なんです。でもそんな難しくないですよ。東北の混浴温泉ですけどね。田舎の山奥なんかだと混浴はまだ一般的なんじゃないかな。見てのとおり、写真に撮られることをみんな楽しんでるでしょう。
おもしろいのは、女の人の方が男よりも混浴に抵抗がないんだね。男性に裸を見られるのにも慣れてるし、恥ずかしがることもないんです。逆にこっちが変に意識してしまうと、向こうも気にしちゃう。
――地元の人々ですか?
いや、ほとんどは旅行者ですね。田舎だと生活のリズムも季節に従うから、農家が何もすることがない冬は時間がたくさんあるんですよ。そういうときは昔から、温泉でときを過ごして、普段きつい仕事で溜まった疲れを癒すんです。
――なぜそういう場所に魅力を感じるのですか?
古いだけじゃない、崩れて消えかけているようなものがなぜか好きなんですね。何かが消え去っていく過程で、時間の経過が人や物の痕跡を残す……そういうものに魅力を感じたんです。その意味で本州の最北端は最高だったんですよ……いい時期でしたね……。
立石(訳注=慎太郎)さんって友達とよく旅行したんですが……立石さんも数年前に亡くなっちゃいました。ただ北といっても北海道はそんなに興味なかったので行ったことないんです。いろんなものがわりと新しい感じがしたので。
――最近はあまり旅行してないみたいですが。
もう旅行に行くような体力がないんです。最近はもう、どこかへ行くといってもお買い得品目当てに近所のスーパーを自転車で回るぐらいで、主婦みたいな生活ですよ。洗濯をして、食料品を買いに行って、1日3食用意するだけで他に何もできない。
昔みたいに音楽を聴くとか映画を見るとか、本を読んだりする時間はほとんどないです。かわりによく眠りますね。僕ぐらいの年齢だと6時間程度の睡眠で十分らしいんですけど12時間ぐらい布団に入ってます。最近の生活はまあそんなもんですね。でもそれもそんなに悪くないです。

