「家族を優先しろ」と言った夜のこと
妻が転職の話を持ち出してきたのは、子どもが2歳になった頃のことでした。目を輝かせながら求人票を見せてくる妻の顔は、久しぶりに見る表情で、正直なところ、少し眩しかったのを覚えています。
でも俺が口にしたのは「家族を優先しろ」という言葉でした。転職すれば収入が下がるかもしれない。子どもがまだ小さい。安定が一番だ。理屈は並べられました。
それでも結果として、妻は応募を諦めました。俺はその後、この話題に触れることを避け続けました。
笑わなくなっていった妻
転職を諦めてから、妻が少しずつ変わっていくのに気づいていました。
家事も仕事もちゃんとこなしている。でも、どこかぼんやりとしている。夕食の時間、言葉が減った。あの夜、求人票を見せてきたときのあの顔が、もう見られなくなった。
俺のせいだ、とわかっていました。わかっていながら、何も言い出せなかった。謝り方もわからなかったし、今さら「応募していいよ」と言える顔もなかった。
だから俺は、別の方法を選びました。
