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「触れていないのに摩擦が発生する」新たな物理現象を発見――300年続く「押さえつけるほど動かしにくい」に意外な例外

「触れていないのに摩擦が発生する」新たな物理現象を発見――300年続く「押さえつけるほど動かしにくい」に意外な例外

これが摩擦なのか?

これが摩擦なのか?
これが摩擦なのか? / Credit:Canva

ここまで読んできて、こう感じた方もいるのではないでしょうか。

「触れていない、削れない、すり減らない、ギザギザもない――それを果たして”摩擦”と呼んでいいのだろうか?」と。

ところが物理学者にとって、彼らがある現象を摩擦と呼ぶかどうかを決めるとき、見ているのは「こすれ合っているかどうか」ではありません。

見ているのは、動かそうとする力に逆らっているか、そして動かしたぶんのエネルギーを熱として失わせる現象かどうか、という2点だけです。

この見方からすると、今回の場合の判定もとてもシンプルになります。

動きを邪魔してくるか? <はい>

動かしたエネルギーは熱になって戻ってこないか? <はい>

だったら、それは摩擦です。

素材が何でできているか、表面がどうなっているか、そもそも触れているかどうか、といった事情はすべて二次的な問題で、本質はこの2つの条件を満たしているかどうかにかかっています。

今回コンスタンツ大学のチームが見つけた現象は、この2つを完璧に満たしています。

だから物理学者たちは、ためらいなくこれを”摩擦”と呼んでいるのです。

実は、こうした「触れていないけれど摩擦と呼ばれているもの」は、今回が初めてではありません。

物理学の世界には、昔からそう呼ばれてきた仲間が何種類もあります。

たとえば、銅の板のそばで磁石を動かすと、不思議な抵抗を感じて止まろうとします。

銅は鉄ではないので、磁石にくっついたりはしません。

なのに磁石を動かしてみると、まるで水あめのなかを動かしているかのような、ねっとりとした抵抗を感じるのです。

ここでもう一度、2つの条件を当てはめます。

動きに逆らっているか? イエスです。

手のなかの磁石は、銅板に近いところを動かそうとすると、はっきりと「動かしにくい」と訴えてきます。

エネルギーは熱になって戻ってこないか? これもイエスです。

磁石を動かし続けていると、銅板はじわじわ温かくなっていきます。

手を離して銅板から熱を回収しようとしても、もう手遅れで、温度は空気中へ散っていきます。

これも立派な摩擦の一種として教科書に載っています。

渦電流による摩擦と呼ばれていて、新幹線や電車のブレーキの一部にも応用されている有名な現象です。

さらに天文学の世界では、銀河のなかを進む星が周囲の重力にひっかかって減速していくタイプの「摩擦」が知られています。

たとえば、ある星が銀河のなかを進んでいくと、その星の重力にまわりの星たちが少しだけ引きずられ、進んできた方向の真後ろにわずかに集まる、という現象が起こります。

後ろにかたまった星たちは今度は逆に、進んでいる星を重力で引き戻すように働きます。

結果として、進んでいる星はまわりの重力に引っかかってじわじわ減速していくのです。

ここでも条件を当てはめましょう。 動きに逆らっているか? イエスです。

進もうとする星に対して、まわりの星たちが重力で引き戻すようにブレーキをかけています。

エネルギーは戻ってこないか? これもイエスです。

減速したぶんのエネルギーは、まわりの星たちのランダムな動き――専門的には熱と同じものだと考えてかまいません――として星団全体に散らばっていき、もとの星には二度と戻ってきません。

これも物理学の世界では、れっきとした摩擦として扱われています。

力学的摩擦という名前があって、銀河の進化を計算するときには欠かせない概念になっています。

素材が水でも金属でも星でも、こすれ合っていてもいなくても、近くても遠くても、「動きに逆らう+エネルギーを熱として失わせる」という2つさえ満たせば、物理学者はそれを摩擦と呼んでいるということです。

私たちが「摩擦」と聞いて頭に浮かべるのは、たいてい靴底と地面のような場面ですが、実は物理学の側はもっとずっと広い意味でこの言葉を使ってきました。

今回コンスタンツ大学のチームが見つけた「磁石の板ばさみが生む熱」も、その長い系譜のいちばん新しい仲間として、列記されることになったのです。

300年の法則が崩れたもうひとつの理由

300年の法則が崩れたもうひとつの理由
300年の法則が崩れたもうひとつの理由 / Credit:Canva

研究チームをさらに驚かせたのは、板同士の距離を変えたときの挙動です。

板と板を近づけると、磁石同士が引き合う力が強まり、上の板が下の板にぐっと押しつけられる形になります。

そしてアモントンの法則は「摩擦力とすべり接触面に加えられた垂直荷重(押さえつけの力)との間に、単調な関係がある」と述べています。

ですから板を近づけるほど――つまり押しつけの力が強くなるほど――摩擦も単調に増えていくはずです。

ところが結果は違いました。

板を大きく離したときも、ぐっと近づけたときも、どちらも摩擦は弱い。

そして両者のちょうど中間――実験では約9ミリメートル付近――でだけ、摩擦は急峻なピークを描いたのです。

グラフは、山なりの曲線になりました。

研究者もこの点について、アモントン則からの「明確な逸脱(clear deviation)」だと結論しています。

ではなぜ中間距離で最大になるのか。

それは、先ほどの2つのしがらみの強さがちょうどこの距離で綱引きのように引き合うからです。

板が近いときは下の磁石の影響が圧倒的に強く、コマたちは素直に下とそろえて一糸乱れず進んでいく。

遠いときは下の影響が弱まり、コマ同士は隣との関係だけを気にして静かに落ち着いてしまう。

どちらの場合もコマたちはあまり迷わず、エネルギーはほとんど失われません。 ところが中間距離では「下とそろえたい」と「隣とそろえたい」の両方が同じくらいの強さで引っ張り合い、コマたちは決断できないまま向きを切り替え続ける羽目になる。

いちばん多くのエネルギーが熱に変わるのは、この板ばさみの距離なのです。

これは要するに、距離を変えるだけで効きを調節できる、減らないブレーキを作れる、ということを意味します。

このようなブレーキは磁石どうしが触れていないので、磁石のあいだでは、いくら動かしても部品がすり減ることはありません。

また効き具合を遠隔から調節できる道もひらけます。 研究チームも、この性質がナノサイズの精密機械や磁気軸受、振動吸収装置など、幅広い応用先を見込めると述べています。

アモントンの法則は、物と物が触れ合う日常の世界ではいまも正しいままです。

ただ、触れ合わない磁石たちの世界では、それとはまったく別のルールが静かに働いていたのです。

参考文献

Challenging a 300-year-old law of friction
https://www.psychologie.uni-konstanz.de/en/working-group-renner/news/news/news-detail/challenging-a-300-year-old-law-of-friction/

元論文

Non-monotonic magnetic friction from collective rotor dynamics
https://doi.org/10.1038/s41563-026-02538-1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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