より野球が楽しくなる
皆が右手にグローブで左手でガッツポーズ。ユニフォームは自由。左利きという制約がなくなり、とにかく自由に純粋に野球を楽しむことができるのもレフティー野球大会の魅力だ印象的なのは、参加者の言葉が勝敗より先に「できなかったことができた」に向かう点だ。
「普段やれてないポジションがやれる。それが一番大きいですね」
即席チームで、初対面同士も多い。それでも不思議とすぐに打ち解けることができるのは、同じ境遇を共有しているからだと池谷さんは言う。打ち上げを「やりたいね」と話すほど、つながりも自然と育っていく。
そして池谷さんは、野球を続けることがもたらす効用を、ストレートに言い切る。
「野球は健康に良い。年齢を重ねても長くできるスポーツです。私は60歳を過ぎましたが、還暦軟式野球連盟に登録しているチームに所属して現役でプレーをしています。還暦野球は全国大会があるほど盛んにおこなわれ、チームも多くあります。還暦だけではなく古希の方々のリーグもあって、みんなはつらつとしたプレーをしていますよ。私は投手をやることもありますが、今でも1キロでも早く投げたいと思い、ランニングやジムなどで体を鍛えています。野球をやることは健康にも良いですが、日々の生活スタイルにも良い影響を与えてくれるスポーツだと思います」
このコメントが示すのは、野球の価値が「スポーツ」だけに収まらないということだ。年齢を重ねても、目標が消えない。今日より少し速い球を投げたい。昨日より少しだけ上手く守りたい。その小さな更新が、トレーニングの習慣を作り、生活のリズムを整え、週末の楽しみを生む。
しかも野球はチームスポーツだ。声を掛け合い、ミスが出てもカバーする。勝つためだけではなく、続けるために助け合い、相手を思いやる。そこに、コミュニティが立ち上がる条件がそろっている。
レフティー野球大会も同じだ。これは左利きのためのイベントに見えて、「ルールを変える」ことで視界が開ける“柔軟な発想”の大切さ、でもある。メジャースポーツの“固定された前提”は、時に誰かを黙ってベンチに追いやる。だが前提を少し組み替えるだけで、参加者が増え、仲間を支え、笑いが生まれ、もう一度やりたいという思いにつながる。常識に捉われないことで、スポーツの価値がより拡がっていく好例でもある。
text by Akihiro Ichiyanagi(Parasapo Lab)
写真提供:杉並区立小PTA野球競技会
