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「お湯が水より先に凍る」ムペンバ効果──量子の世界にも同じ仕組みが隠れていた

「お湯が水より先に凍る」ムペンバ効果──量子の世界にも同じ仕組みが隠れていた

同じ系の中に2つのムペンバ効果が隠れていた

量子ムペンバ効果――「水よりお湯が早く凍る」現象が量子世界と結び付いた
量子ムペンバ効果――「水よりお湯が早く凍る」現象が量子世界と結び付いた / Credit:Canva

研究チームの発見は、「日常の世界と量子の世界で同じ構造が見られる」というだけにとどまりません。

さらに踏み込んで、2種類のムペンバ効果が実は1つの距離の内訳として現れることを明らかにしています。

物理学には、ある系がゴール(平衡)からどれだけ離れているかを1つの数字で表す尺度(相対エントロピー)があります。

いわば、ゴールまでの「総合的な距離」を1つの数字で表したものです。

研究チームはこの「総合的な距離」が、2つの成分にきれいに分かれることを示しました。

「平衡からの全体的な距離」=「対称性の壊れの大きさ」+「対称性を保ったまま残る平衡からのズレ」

つまり、熱的ムペンバ効果は左辺全体を見たときの現象であり、対称性ムペンバ効果は右辺第1項だけを見たときの現象なのです。

同じ物理系でも、「何を測るか」を変えるだけで、異なるタイプのムペンバ効果が顔を出す──そうした構造が、この1本の式から浮かび上がってきました。

実際に研究チームは、同じシステムで測る尺度を切り替えるだけで、2つのムペンバ効果が両方とも現れることを計算で確認しています。

別々の現象に見えていたものが、1枚のコインの表と裏だったのです。

論文では、この枠組みはエネルギーや対称性だけでなく、量子もつれなど他の「資源」にも広げられる可能性が指摘されています。

探すべき場所さえわかれば、似た現象は次々と見つかるだろう──著者らはそう予測しています。

量子コンピュータの初期化を高速化したり、量子センサーの精度を高めたりといった応用の糸口も、この「どこを探すか」の地図から見えてくるかもしれません。

1963年にタンザニアの教室で始まった「なぜ熱い方が先に凍るの?」という問いは、60年の時を経て、量子の世界にまで届きました。

水そのものの謎は今も完全には解けていませんが、その奥にある構造は、驚くほどシンプルなものだったのです。

遠回りに見える道にこそ、近道が隠れていることがある。

それは、お湯でも量子ビットでも変わりません。

元論文

Resource-Theoretical Unification of Mpemba Effects: Classical and Quantum
https://doi.org/10.1103/rbt4-psfd

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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