最新エンタメ情報が満載! Merkystyle マーキースタイル
脳トレ四択クイズ | Merkystyle
「ナイロンの釣り糸」が海で生分解することを発見:実は急速に溶けていた

「ナイロンの釣り糸」が海で生分解することを発見:実は急速に溶けていた

ゴーストギア終焉への道筋

ゴーストギア終焉への道筋
ゴーストギア終焉への道筋 / 漁具にからまっているウミガメの悲しい画像。しかしナイロンが溶けやすいのならば改良によってより安全な素材になれるかもしれない/Credit:wikipedia

今回の研究結果は、「ナイロン=海では分解しない」としてきた従来の通説を根本から揺るがすものでした。

教科書レベルで長年言われてきた常識に対して、「実は一部のナイロン釣り糸は海の中でも、代表的な生分解性素材であるセルロースと同等に分解されていた」という事実が示されたのです。

これは、ゴーストギア(海中や海底に捨てられた漁具)やマイクロプラスチック汚染が深刻化するなかで、大きなブレークスルーになるかもしれません。

なぜ海の中で分解されるナイロン釣り糸が存在するのか、今後さらに詳しく解明が進めば、いっそう実用化への道が開けると考えられます。

すでに研究チームは、釣り糸の配合比率や構造のちょっとした違いが、微生物による分解の進みやすさに大きく関係しているのではないかと見ています。

たとえば海中に生息するバクテリアや菌類が、ナイロンの特定部分を分解できる酵素を持っている可能性があり、今後の研究でそこが明らかになれば、漁網や釣り糸の改良を加速できると期待されています。

さらに、今回の発見は「すでに市販されている製品」にも当てはまるという点が見逃せません。

つまり、わざわざ特別な新素材を開発しなくても、一定の配合や製造法によっては、環境に優しい釣り糸が十分に普及する可能性があるのです。

これは製造コストや大量生産の面でも大きなメリットとなり得ます。

もちろん、どのブランドや製品がどれだけ分解されやすいのかは、さらなる検証が必要ですが、そうした“選択肢”が既に市場に存在するだけでも一歩前進といえます。

ナイロンが生分解される仕組みを予想

①微生物による酵素的アタック

1970年代後半に見つかった事例として、特定のバクテリアが「ナイロン分解酵素(通称:ナイロナーゼ)」をもつことが知られています。

この酵素はナイロン(とくにナイロン6に由来するモノマー)を加水分解し、より小さな分子に分解する働きを持ちます。

海洋には多種多様な微生物がおり、そのなかの一部が類似の酵素を生産している可能性があります。

②共重合体の比率による結晶性(固さ・構造)の変化

ナイロン6とナイロン6,6を混ぜ合わせた「共重合体」では、その割合によって分子鎖の並び方や結晶構造が微妙に変わります。

一般に、ナイロンは分子がきっちり並んだ「結晶領域」が大きいほど水分や酵素が入り込みにくく、分解されにくいと考えられています。

一方、今回の研究で生分解性が確認された共重合体は、結晶領域が適度に乱されていて、水や微生物の酵素がアミド結合にアプローチしやすい構造になっていた可能性があります。

③海洋環境がもたらす局所的な“酸化・加水分解”要因

海水には塩分や多様な微生物、さらにはプランクトン由来の酵素などが存在し、陸上とは違う化学的・生物学的反応が起こります。

共重合体の比率が合ったナイロン釣り糸は、海水や微生物との接触面で徐々にアミド結合が切断され、そこから内部に水や酵素が浸透しやすくなる“ほころび”が生じている可能性があります。

④表面の“攻撃”から内部へ広がる分解の進行

釣り糸の表面は凹凸が生じやすく、そこにバクテリアや菌類が付着しやすい環境が形成されます。

表面から分解が始まり、傷や穴が徐々に拡大していくことで、結果的に結び目の強度低下や見た目の劣化が進んでいくと考えられます。

(※今回の発見につながった海洋生分解性の確認や、市販製品の共重合体比率が大きなカギになっていることは明確に示されていますが、具体的に「ナイロナーゼなどの酵素」「結晶構造が乱れることによる分解促進」といった詳細なメカニズムまでは公表されていません。研究者側もプレスリリース中で「微生物や酵素の専門家が参加して生分解メカニズムを検討中」と述べており、現時点では“どの微生物がどういった酵素で分解しているのか”という部分には踏み込んでいない段階です。)

いっぽうで、今回の結果をもって「ナイロン素材なら何でも分解される」と誤解するのは危険です。

実験で分解が確認されたのは、あくまで特定の共重合体比率のナイロンだけですし、分解速度は海域の条件(温度や微生物の種類など)に大きく左右されます。

たとえば、寒冷な海や生物の少ない環境では、同じナイロンでも分解が遅れる場合もあります。

今後はさまざまな海域での実証試験や、微生物によるメカニズムの一層詳細な解明が求められるでしょう。

それでも今回の発見は、ゴーストギア問題の解決に向けた大きな一歩です。

釣り糸だけでなく、漁網やロープなどにも応用が進めば、これまで長期間残留していた漁業廃棄物が自然に還る時代が来るかもしれません。

研究者たちも「教科書を書き換えるレベルの衝撃」と評しており、私たちの海を守るための新たな武器となる可能性が大いにあるのです。

参考文献

これまで分解しないとされていた市販の釣り糸が海洋で生分解することを発見
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1267

元論文

第 74 回高分子学会年次大会
https://www.spsj.or.jp/nenkai/

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

提供元

プロフィール画像

ナゾロジー

ナゾロジーはkusuguru株式会社が運営する科学情報サイトです。読者をワクワクさせ、科学好きな人を増やすことを理念に運営しています。 現在、世界はたくさんの便利なテクノロジーによって支えられています。しかし、その背景にある科学の原理や法則を知る機会はあまりありません。 身近に潜む科学現象からちょっと難しい最先端の研究まで、その原理や面白さを分かりやすく伝えられるようにニュースを発信していきます。

あなたにおすすめ