繊維事業の技術を最大化した「ヒートテック」
東レの復活の物語を完成させたのは、その卓越した高分子技術を応用した先端素材の成功です。東レの炭素繊維「トレカ」は、鉄よりも軽く、アルミニウムよりも強いという究極の素材であり、同社は同分野で断トツの世界首位を誇っています。
この炭素繊維複合材(CFRP)は、米国のボーイング787や欧州のエアバスA350など、次世代航空機の構造材に採用されており、見えないところで世界を支える素材となっています。
さらに、2006年にはユニクロを運営するファーストリテイリングと戦略的事業提携を結び、あの「ヒートテック」の開発に成功しました。
これは、東レの「水分を吸収すると発熱する」という画期的な繊維技術と、ユニクロの販売力が結びついた結果であり、斜陽事業を成長産業へと大復活させた象徴的な事例となりました。
三井グループ内での「独立」の気風
東レは三井グループの主要企業ですが、その経営は常に「独立」の気風が強いものでした。
1990年には、三井東圧化学、三井石油化学との「三社合併構想」が持ち上がりましたが、これを破談にしました。その理由として、高シェア製品の独占禁止法への懸念や、企業文化の融合の難しさを挙げ、三井の結束よりも「事業の合理性」を優先したのです。
東レの研究開発報告書には、「The Deeper, the Newer(より深く、より新しく)」いう研究哲学が記されています。東レの歴史は、技術者としての誇りと、市場に迎合しない反骨精神が、企業をいかに強くするかを示しています。
また、そのような姿勢を貫く東レを今なお三井グループ内に留める三井の気風も、「人の三井」を感じさせる気がしてなりません。
文/山川清弘 写真/shutterstock

