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2人の若き数学者が300年来の多面体ルールを覆す――「自分自身を通り抜けられない立体」を初発見

2人の若き数学者が300年来の多面体ルールを覆す――「自分自身を通り抜けられない立体」を初発見

無限を別の無限に変換する魔法

無限を別の無限に変換する魔法
無限を別の無限に変換する魔法 / Credit:Canva

シュタイニンガー氏とユルケビッチ氏は、力ずくのチェックでは埒が明かないと考えていました。

立体の向きには無限のパターンがあります。

コンピューターで一つずつ調べていたら、宇宙が終わるまでに終わりません。

ここで2人が考えたのは、こういう発想でした。

立体を8個や、20個や、60個の角の点の集まりとして数学的に扱うと、立体を通すかどうかは、結局のところ次の問いに変わります。

「2つの立体の角の点を、どう回転させ合えば、通すほうのすべての点がもう一方の影の内側に収まるか?」

難しそうに思えますが、ようは内側の通すほうの角の点が外に出たらアウトというのを、グリグリ回転させながら確かめていくという意味です。

そして2つの立体の影の関係を決めるパラメーターは、論文では合計5つで表されます。

内訳は、一方の立体の射影方向(影を作る視線の向き)を決める2つの角度、もう一方の立体の射影方向を決める2つの角度、そして影の平面内での回転を決める1つの角度――計5つの「ダイヤル」です。

5種類の数値(軸)で物事が決まる世界を、数学では「5次元の問題」と呼びます。

だから「2つの立体の向きの無限の組み合わせ」というのは、5次元空間の中の1つの点として表現できる――

「何を言っているかわからない」と思うかもしれません。

ですが要は、無限に思えるパターンがあるところを、2つの立体の影の関係を変える「ダイヤル(軸)」が5種類あり、それらを少しずつ動かせる。

3次元空間なら「縦・横・高さ」の3種類のダイヤル(軸)で位置が決まりますが、5次元空間の中ではそれが5種類になると考えたのです。

この5種類のダイヤルで問題となる外側と内側のサイコロたちのあらゆる影の関係が決まります。

2つの立体の回転パターンは無限にあります。

ダイヤルをいじって5次元空間のどこに存在するかも無限の選択肢があります。

こう書くと進歩がないように思えますが、研究者たちは、まず無限の種類を別の形にしてみたのです。

「無限の考え方を変えた」とも言えるでしょう。

どうしようもない相手も角度を変えてアプローチすれば打開策がみつかることがあるように、埒が明かない無限相手でも、考え方を変えれば何かが見えてくるかもしれません。

実際、無限の形を変えることで「宇宙が終わるまで続けても証明できない無限」を「5次元空間の全ての地点で、通れる場合が存在しないことを証明すればいい」という問題に書き換わりました。

ただ依然として、無限の点を調べなければならないという課題は残っていました。

・はみ出し者をみつければいい

はみ出し者をみつけろ
はみ出し者をみつけろ / Credit: Steininger & Yurkevich (2025), arXiv:2508.18475

ここから先は、2人がどうやって「無限の組み合わせを排除する論理」を組み上げたか、という話です。

難しそうですが、中身はかなりシンプルです。

立体の角の点たちを上から見下ろした影に閉じ込めようとするとき、角の点がもう一方の影から「どれくらいはみ出しているか」をコンピューターで測ることができます。

もちろん人間が実際に定規と分度器で人力で測ることもできますが、コンピューターに任せた方が楽です。

ただ時にはコンピューターがかなりの時間をかけても、点のいくつかが影から大きくはみ出し続けてしまう場合もあります。

このとき、その向きを少しいじったくらいでは、関節のはみ出し方は劇的には変わりません。

多少ダイヤルを回しても、はみ出した関節は、はみ出したままです。

つまり、ある向きで「盛大にはみ出している」という事実があれば、その向きの周辺一帯は、まとめて「ルパート通路が存在しない領域」と考えられるわけです。

疑わしきは罰してしまう方法です。

5次元のダイヤル空間に、はみ出している領域の「ブロック」が、ごっそり生まれるイメージです。

これが2人の最初の武器、「大域定理(global theorem)」と呼ばれる結果でした。

もちろん、疑わしきを罰する「だけ」では数学の証明どころか普通の裁判でもアウトです。

そこで2人は立体の影の輪郭に並ぶ点たちのなかから、特定の条件を満たす、影の境界上の3点を選んで調べることにしました。

これらは「3方向に最大限に張り出している」「原点を内側に含む三角形を作る」「角度的に局所的に最も遠い」など、複数の条件を満たすよう選び抜かれた点たちです。

研究者たちはこの3点の動きを集中的に調べました。

無限、5次元ときて、3つの点の動きまで絞り込んでいったわけです。

これが2人の考えたもう一つの武器「局所定理(local theorem)」でした。

すると立体をどんなふうにわずかに回転させても、必ずそのうちの少なくとも1つの点が、さらに外側に飛び出してしまうことが、論理だけで証明できるのです。

1つが必ず外に飛び出すことを証明できたということは、無限に試しても飛び出し続けるという意味です。

ここまでで、2人が真剣に考え始めてから、すでに数年がかりです。

ところが、ここからまた壁が現れます。

局所定理を使うには、対象の立体の影の輪郭上に条件を満たす3点が必要です。

しかしこれまで「ノパート候補」と疑われてきた美しい立体たち──ロンビコシド十二面体、その仲間たち──を実際にチェックしてみると、いずれもどこかの方向の影で3点が出そろわない状況が出てしまったのです。

ここで普通なら、「やっぱり予想は正しかったのかもしれない」と諦めるところです。

けれど2人は違いました。

「無いなら、自分たちで作ろう」

そう決めたのです。

容疑者探しから、1人の真犯人を特定する作業に入ったのです。

たった1つ絶対的な例外であることを証明できれば法則を崩すには十分です。

300年来のルールを破る多面体がみつかった

300年来のルールを破る多面体がみつかった
300年来のルールを破る多面体がみつかった / Credit: Steininger & Yurkevich (2025), arXiv:2508.18475

2人は新しいアルゴリズムを書きました。

「局所定理が通用する立体」を、コンピューターに自動生成させる。

具体的には、影の輪郭にどう傾けても「条件を満たす3つの関節」が現れるような立体をひたすら作り出していくのです。

アルゴリズムが最終的に吐き出したのが、不思議な立体でした。

90個の頂点(関節)。240本の辺(骨)。152の面(皮膚)。

多面体としては、なかなか派手な構造です。

そしてもう一つの重要な特徴があります。

点対称であること――どの頂点にも、原点を挟んで真反対の位置にぴったり対応する関節がある。

だから、全体が原点を中心に完璧にバランスがとれている。

90個の関節たちが、空中で正確に踊っているような、整然とした立体です。

著者2人はこの新しい立体に、ちょっとふざけた名前を付けました。

「ノパーヘドロン(Noperthedron)」

これは先ほど登場した「ノパート」――マーフィー氏が「自分と同じ形を通せる穴を持たない多面体」を指して作った造語――に、多面体を表す接尾辞「-ヘドロン」をくっつけたものです。

つまり「ノー(Nope)」と「ルパート(Rupert)」と「-ヘドロン」の三段重ねの合成語、という不思議な命名です。

このノパーヘドロンは容疑者どころか、法則を打ち破る例外になり得る、ほぼ犯人と言える存在です。

けれどこれだけでは、まだ証明にはなりません。

5つのダイヤルでできた5次元空間のあらゆる地点で、「90個の頂点を、もう一方の影の中に押し込められる向きが、本当に存在しない」ことを確認しないといけません。

そこで研究チームは、この5次元空間を、約1800万個の小さなブロックに切り分けました。

そして各ブロックの中心点をひとつ取り出して、片っ端から調べていきます。

こういうと

「結局1800万通りしか調べていないなら、無限の取りこぼしがあるんじゃないの?」

「5次元空間に『飛び石』のように1800万個の点が散らばっていて、その点だけ調べたのは無限からの逃げでは?」

と思うかもしれませんが、違います。

5次元空間を、1800万個の小さな「箱」に切り分けはしますが、1800万個のブロックは、5次元空間の「全部」を覆っているのです。

隙間はゼロです。

5次元空間のどこをダイヤルで指し示しても、必ずどこかの箱に属しています。

(※厳密には、論文で扱われる5次元空間は無限に広がる空間ではなく、立体の対称性によって有限の範囲(角度の組み合わせ)に絞り込まれています。ただこれは逃げではありません。無限が有限の繰り返しならば、その有限の範囲で証明できれば無限全体に適用できるのです。ノパーヘドロンの15回対称性により、本来360度ぶんあるダイヤルの一部は24度ぶんだけ調べれば十分になります。言い換えれば、有限の範囲が「無限のダイヤル操作の急所」となっており、そこさえ抑えれば残りは対称性のコピーとして自動的に結論が決まる、という仕掛けです。)

そして1800万個の箱の一つひとつには、ある仕掛けがほどこされていました。

「箱の中心点さえ調べれば、その箱の中のどこを動いても結論は変わらない」――そう保証してくれる論理が、最初から組み込まれていたのです。

これがまさに、2人が5年がかりで作り上げた大域定理と局所定理の役割でした。

普通の検算は、1点を調べると、その1点についてしか結論が出ません。

ところが大域定理と局所定理は違います。

1点を入力すると、その点を中心とする領域全体について結論が出る。

言ってみれば、単体攻撃ではなく「範囲攻撃」ができる論理装置です。

そうしておいて各箱について――

大域定理が通用すれば:そのブロック全体を「通せない」と判定して除外する。

局所定理が通用すれば:そのブロック全体を「通せない」と判定して除外する。

として、調べていきます。

中心点を1つ調べると、その1点での観測結果から、定理の論理によって、箱の中の連続的に詰まった無限の点ぜんぶについて結論が出る。

1点を見ているのですが、結論は箱全体に行き渡っている。

これが繰り返されていきます。

これは数学の証明において有限で無限を打ち倒す典型的なやり方です。

無限の点を1個ずつ確かめるのではなく、有限個の代表点での観測と、点の周辺での連続性や幾何学的性質を保証する定理の論理によって、無限の点に関する結論を一括で得るのです。

コンピューター科学の用語で言えば「区間演算による厳密な誤差評価」に近い手法を、5次元の領域分割で実装したものになります。

言ってみれば「無限の急所を押え、有限を定理の論理で範囲攻撃できるように強化する」という補助魔法を使い、有限で無限を克服するわけです。

そして、結果はこうでした。

1800万個すべてのブロックで、大域定理か局所定理のどちらかが通用し、すべてのブロックが「通せない」と判定されました。

これらのブロックは5次元空間全体を埋め尽くしていて、各ブロックの中の無数の点も、定理によってすべてカバーされている。

つまり、有限個の「範囲攻撃」が、無限のダイヤル空間を完全に打倒したのです。

ノパーヘドロンの90個の関節を、すべて別のノパーヘドロンの影の内側に押し込められるような向きは、5つのダイヤルをどう調整しても、宇宙のどこにも存在しない。

肉でも皮膚でも骨でもない、90個の関節たち。

それが、どんなに角度を変えても、必ずどれか一つが牢獄からはみ出してしまう。

これが、300年越しの問いに対する、ついに出た答えでした。

配信元: ナゾロジー

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