低所得者層は負担増
参考までに、このときに示された政府〈見直し〉案の引き上げ額概要が[表1]だ。
2027年以降に予定されていた自己負担上限額の引き上げ幅が尋常ではない大きさであったことは、表の上部分に示した現行制度と比較すれば一目瞭然だ。
また、この〈見直し〉案では2027年の年収区分が現行制度よりも細かく分かれていることもわかる。この案は2025年3月にひとまず凍結された。
ちなみに、この当初〈見直し〉案が凍結された後に、約9カ月の議論を経て厚労省は2025年12月25日に新たな〈見直し〉案を示した。その自己負担上限額と引き上げ率を、凍結された当初案と比較したものが[表2]だ。
凍結後に行われた議論をある程度反映した結果、新たな案では引き上げ率が総じて半分程度になっていることがわかる。ただし、低所得者層に関しては、凍結案よりも新たな〈見直し〉案の方が費用負担はむしろ高くなっている。
また、この新たな案による社会保険料の負担軽減を、厚労省は一人あたり年間1400円(約116円/月)と見積もっている。つまり、凍結案よりも新たな案の方が負担軽減効果は低いことになる。
文/西村章
註
*1 以下の報道など。
・「高額療養費制度 来年8月から上限額引き上げの方針 厚労省」NHKニュース、二〇二四年一二月二三日。
・「高額療養費制度、自己負担限度額を引き上げへ 25年8月から」、「毎日新聞」二〇二四年一二月二五日。
・「年収700万円で月5・9万円増 高額療養費制度の上限額」時事通信、二〇二四年一二月二五日。
*2 武蔵大学社会学部・市川衛准教授の調査では、全国紙四紙(朝日、読売、毎日、産経)と通信社二社(共同、時事)、及びNHKの報道で二〇二四年六月〜二〇二五年五月に「高額療養費」という言葉がタイトルに使用された回数は二〇二四年一〇月までは六月と九月にそれぞれ一件であったところから、一一月に一二件、一二月に二八件と増加、一月は二件に激減して二月に一一二件、三月に一四九件と一気に急増し、四月には七件に激減している。また、報道内容は、一二月の「上限額引き上げが決まった」という決定事項を伝えるかのような報告から、二月の急増期には制度利用当事者の切実な訴えや国会議論の紛糾などを伝える方向へとトーンが変化していることが顕著に読み取れるという(二〇二五年一〇月二八日、日本公衆衛生学会ワークショップ発表より)。
高額療養費制度 ひろがる日本の〈健康格差〉
西村 章
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自己免疫疾患の治療で長年この制度を利用してきたジャーナリストは、2024年冬に政府が発表した「改悪」案に不安と憤りをおぼえ、取材を開始する。
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◆目次◆
第1章 高額療養費制度とは何か
第2章 part1 政治的・財政的背景から読み解く〈見直し〉案
第2章 part2 患者団体は〈見直し〉案凍結と変更をどう実現させたのか?――天野慎介氏に訊く
第3章 2024・2025年の〈見直し〉案をひもとく――安藤道人氏に訊く
第4章 高額療養費制度に潜む「落とし穴」を検証する――五十嵐 中氏に訊く
第5章 「魔改造」を施された日本の医療保険制度と高額療養費――高久玲音氏に訊く
第6章 part1 司法の視点から高額療養費制度を検証する――齋藤 裕氏に訊く
第6章 part2 立法の視点から高額療養費制度を検証する――中島克仁氏に訊く
第7章 「健康格差」解消のために、どのような医療保険制度を構想すればよいのか?――伊藤ゆり氏に訊く
第8章 大局的な視野から日本の医療保険制度と高額療養費制度を考える――二木 立氏との一問一答

