住宅展示場を訪れると、最新の設備や洗練された空間に心が躍る——そんな経験をした人も多いだろう。だが、その“楽しい見学”の裏側で、営業担当はある明確なゴールに向かって動いている。しかも、多くの来場者はその思惑に気づかないまま、商談の席へと導かれていくのが実情だ。元住宅営業マンが現場のリアルを語る。
『住宅業界ぶっちゃけ話 元営業マンが暴露する儲けのカラクリ』より一部抜粋、再構成してお届けする。
「夢」に猛進するお客さまにしかけられた罠
住宅展示場に来たお客さまに対して、どこのメーカーも同じような「接客の流れ」というものがある。
まずは住宅展示場のモデルハウスを案内してお客さまの感情を昂らせる。ただ、ここでお客さまに「すごかったねー」「素敵だったねー」で終わらせては商売にならない。
住宅営業マンはアトラクションのキャストではないので、ここで終わらせるわけにはいかないのだ。このあとの住宅営業マンが狙うのは、お客さまの「着座」である。
つまり、お互いに椅子なり座布団に座って、お客さまの要望や資金的なお話、そのほかお客さまの情報の聞き取りをすること。
ただ、ここでストレートに、「では、こちらに座って、いろいろ聞かせてください」などといったら警戒して座るはずもない。だから自然な流れでお客さまが「座らせられる」しくみがしかけられている。
もちろん最初から営業マンの話を聞く気マンマンのお客さまもいるが、そういうお客さまはそう多くない。
どちらかというと、ちょっと住宅展示場をのぞいて帰ろうといった感じのお客さまが大多数である。まさか野菜や魚を買うように、そんな数日でパタパタ話を持っていかれるなんて思ってもいないからだ。
これはメーカーによって異なるが、まず大きく分けて2パターンあるだろう。
単独店の場合はモデルハウスに隣接している「ショールーム」にご案内。総合住宅展示場のようにモデルハウス兼事務所になっている場合は、モデルハウス内のひと部屋が商談席となっているケースが多い。
ちなみに私が在籍していた住宅メーカーは前者の単独店。
そうなると、モデルハウスを見せて「はい、サヨナラ」ではなく「当社の標準設備の現物がすべて展示してあるので、最後はそれだけごらんになっていってください」と誘導する。
間違っても、「隣のショールームにある商談席でじっくり話しましょう」などといってはこないだろう。
そして、ショールームではお客さまの「第2の感動」が待ち構えている。
そこにはキッチン、ユニットバス、トイレ、洗面化粧台の現物に色のバリエーションのサンプル、床材や外壁、室内建具のサンプルが数百種類……たとえばユニットバスひとつ取り上げても大変な選択肢がある。
まずはそのメーカーの選択。リクシルやらTOTOなどから始まって、メーカーも多岐わたる。そしてメーカーを決めたら、今度はユニットバスの床の色、バスタブの色、バスタブの形状もすべて選択できる。
購入者にとって選択肢の多さも魅力のひとつだろう。ショールームに並んでいる設備関係も当然、標準品もあればオプション品もある。
ただ不思議なことに、展示場も含め、初回接客で説明した細かい内容など、お客さまはほとんど覚えていないことが多い。なぜか?
この段階は、まだ本当に家を建てるのか、どこの住宅メーカーにするのかさえ決まっていない状態。人はこの段階では見たものの印象は残るが、細かい説明の記憶は残らないことが多い。
複数の住宅メーカーを見て回っているお客さまのなかには、他社とごっちゃになっている方もいるくらいだ。
ノルマに追われる営業たちの事情
みなさんも薄々は気づいているかもしれないが、営業担当が本気になるのは「契約前」ではあるのに対し、お客さまが本気になるのは契約金入金後の「契約後」。
それと、契約前に展示場やショールームで見た設備関係のどれが標準品で、どれがオプション品かを、きちんとすべて正確に把握して契約するお客さまもほとんどいない。
その理由として、お客さまが真剣になって細かい打ち合わせ内容が記憶に残るようになるのは、ほとんど工事請負の契約後というのが現実だからである。
住宅というものは間取りや図面、金額はある程度確定させて契約はするものの、細かい仕様決めや色決め等は契約後に打ち合わせすることが一般的。
もちろん契約書には「標準仕様書」として、文字でびっしり標準仕様のキッチンやユニットバス等が型番で記されてはいる。
しかし、実際、契約時にその標準仕様書までを読むお客さまはいないし、担当営業マンが製品型番を読み上げたところで違いがわかるものでもない。
お客さまは住宅設備や仕様を視覚的には覚えているが、その「製品型番」など告げられてもわかるはずがない。
住宅を購入された経験のある方ならわかると思うが、担当営業マンもお客さまも、契約時はほとんど金額の部分と添付されている図面に集中するだけで時間的に目いっぱいである。
だから経験もしていない初回接客の段階では、ある程度、オプション品、標準品を説明したうえで、「このなかからお客さまの好きなものが選べますよー」くらいのことをいっておけばいいというのが住宅営業マンの共通認識でもある。
展示場に来場の初期段階、すべては「印象第一」。
「オプション品もありますけど、だいたい標準品なのでお好みのものを選べますよー」というのと、いちいちご丁寧に「お客さま、これは標準ですけど、それはオプションです! いえっ、あれもオプションです」というのでは大きく印象が変わるのはいうまでもないからである。
そして初回接客として営業マンのその日のゴールは「着座」である。
ショールームを一周し、ある程度お客さまの気分を高揚させた流れで営業マンは商談テーブルに誘導する。そのとき、お客さまにお声かけする言葉も巧みである。
「最後にカタログだけお持ち帰りいただきたいので、こちらでお飲み物でも飲んでお待ちください」とドリンクメニューを見せ、ドリンクのオーダーを取る。ここでのポイントは「最後に」と「お持ち帰りいただきたい」というワードである。
お客さまはこの「最後」という言葉で「これでとりあえず今日は終わりか」という安堵感と、「お持ち帰り」という言葉で「あとはカタログをもらったら帰れる」という安心感で、商談テーブルに家族で着席するわけである。
しかし、営業担当としては、これからが本番。
お客さまが安心し切ってドリンクをストローでチュウチュウ吸っているなか、営業マンはカタログから金融電卓、iPad と、フル装備の完全武装でお客さまの目の前に現れることだろう。
高級な高額老舗住宅メーカーなら単価も高いので、担当営業は3カ月や4カ月で1棟の契約でも、会社からはなんのおとがめもないかもしれないが、薄利多売で会社を回しているローコスト住宅メーカーではそうもいかない。
ローコスト住宅メーカーの営業マンは、毎月1棟がノルマとなるからだ。
文/屋敷康蔵

