世界的なベストセラー小説を実写化した映画『ひつじ探偵団』が、5月8日日本公開される。本作の舞台はイギリスのとある田舎町。愛する羊たちと共に一人で暮らす羊飼いのジョージ。ある日、そのやさしいジョージが死体で発見され、羊たちは、愛するご主人の無念をはらすため殺人事件の捜査を開始する。
アメリカの有力紙によると、本作のグローバル版予告をYouTubeで公開後、わずか24時間で2,500万回再生を突破。実写動物映画の予告編としては歴代最高クラスの驚異的なロケットスタートとなった。さらに、羊たちが毒舌を吐きながら推理するシーンが、TikTokやXで瞬く間に拡散。関連動画の総再生数は一気に1億回を突破し、世界中で、「#TheSheepDetectives」のハッシュタグがトレンド入りした。
「かわいい動物映画かと思ったら、ガチのミステリーだった」という期待を大きく上回る展開に称賛の声が寄せられている本作。モフモフとした羊たちのイメージをいい意味で裏切る物語の魅力を深掘りしたい。
謎の死から始まる羊たちの成長物語
動物がしゃべる映画と聞けば、笑いと涙の王道ファミリー・ムービーを思い浮かべるだろう。『ベイブ』(1995)、『スチュアート・リトル』(1999)、『パディントン』(2014)と、その例は枚挙にいとまがない。しかし、『ひつじ探偵団』(2026)は、そんなお約束を軽やかに裏切ってくれる。モフモフの羊たちが犯人探しに乗り出す、アガサ・クリスティも顔負けの本格ミステリーなのだ。
毎晩羊たちに探偵小説を読み聞かせていた心優しい羊飼いのジョージ(ヒュー・ジャックマン)が、ある日突然何者かに殺されてしまうことから、事件は動き出す。地元のティム巡査(ニコラス・ブラウン)ら人間たちが事件を単なる事故として処理しようとするなか、事態を見かねて立ち上がったのは、群れのなかで最も賢いリリー(声:ジュリア・ルイス=ドレイファス)をリーダーとする「ひつじ探偵団」だった。
彼らは人間たちの的外れな捜査を尻目に、羊ならではの鋭い観察眼を駆使して真実へと迫っていく。やがて捜査が進むにつれ、孤独な羊飼いと思われていたジョージに巨額の遺産があったことが発覚。にわかに浮上する村人たちのドス黒い欲望と、誰もが怪しく見える人間模様のなか、はたして羊たちは真犯人を見つけ出し、愛する主人の無念を晴らすことができるのだろうか?
原作は、ドイツでベストセラーとなったレオニー・スヴァンによる同名小説。プロデューサーのリンゼイ・ドーランは「羊飼いが殺され、羊たちが事件を解決する」というアイデアに感銘を受け、権利の獲得を含めて完成までに17年もの歳月を費やしたという。
メガホンを取ったのは、『ミニオンズ』(2015)などで知られるカイル・バルダ。脚本は、『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』(2011)からドラマ『チェルノブイリ』(2019)、『THE LAST OF US』(2023)まで、幅広いジャンルで傑作を生み出してきたクレイグ・メイジン。なんとも意外すぎる座組だが、実際に本作を観てみると、二人が起用された理由がよく分かる。
バルダ監督は「自分たちよりもはるかに大きな困難を乗り越えようとする、はみ出し者たちの物語が好きだ」と語っている。思えば彼が監督した『ミニオンズ』は、謎の生物が人間世界で奮闘する物語だった。本作の羊たちもまた、人間社会では非力なはみ出し者。それでも彼らは、必死に巨大な謎へと立ち向かっていく。キャラクターの仕草や表情から豊かな感情を引き出し、観客の深い共感を呼ぶアプローチは、アニメーション作家として手腕を磨き上げてきたバルダ監督の真骨頂と言える。
一方、脚本のメイジンは、この奇想天外なミステリーの骨格にヒューマンドラマという熱い血肉を与えている。彼は「これはカミング・オブ・エイジ(成長)の物語だ」とはっきり明言しているのだ。
「彼ら(羊)は大人でありながら、同時に子どもでもあるのです。純真で、これから様々なことを学んでいかなければなりません。死というもの、深い悲しみ、喪失、自分たちが誰かを拒絶したときに払う代償‥‥これらすべてが、成長のプロセスの一部なのです」
彼らが最愛の主の死によって深い悲しみに直面し、仲間と連帯して真実を探求する姿は、痛みを伴う成長のプロセスそのもの。モフモフした動物たちの愛らしいミステリーでありながら、この映画が不思議なほど我々の胸を強く打つ理由は、まさにここにある。
徹底したリアリズムが生む羊の演技
羊たちの視覚表現を担ったのは、世界的VFXスタジオのFramestore。彼らがこの映画で提示した技術力は、驚異的の一言に尽きる。
再現が難しい羊毛を3Dで表現するために、全く新しいレンダリング手法を開発。羊たちの動きや表情は、クリエイターがCGのモデルをコマ送りで少しずつ動かし、手作業で演技をつけていくという、気の遠くなるような職人技によって作られた。
本作に登場する羊たちはすべてCGだが、動物たちをゼロからデザインしたわけではない。VFXスーパーバイザーのグラハム・ペイジらは、登場する羊のキャラクターそれぞれの個性や性格を視覚的に表現できる特徴を求め、「この役柄には、どの品種の羊が最もふさわしいか?」を徹底的に吟味した。つまりFramestoreのスタッフは、観客の目を欺くほどのリアリティを追い求め、イギリス各地の農場を巡り、羊のキャスティングまで敢行してしまったのだ。
そして、役にぴったりの羊を見つけ出すと、その個体をあらゆる角度からスキャンし、CGの基盤となるデータを作成。実在する羊の骨格や外貌をベースに据えることで、本物の羊と見紛うほどの生々しいリアリティと、観客が感情移入できるキャラクターという、相反する要素の絶妙なバランスを実現している。
さらに特筆すべきは、撮影現場における工夫。俳優が空虚な空間に向かって演技をするのを避けるため、現場には「スタフィー」と呼ばれる精巧な等身大パペットが用意された。この物理的な羊の代役を相手にすることで、人間とCGの境界を感じさせない、真に迫る芝居が生まれたのである。
俳優/声優のキャスティングにも、映画ファンをニヤリとさせる巧妙な仕掛けが用意されている。被害者ジョージを演じたヒュー・ジャックマンと言えば、『X-MEN』シリーズの無敵のヒーロー(ウルヴァリン)でおなじみだが、本作では物語の冒頭であっけなく殺されてしまう。
そして、長老羊リッチフィールド卿の声を演じているのは、パトリック・スチュワート。不死身のウルヴァリンが真っ先に命を落とし、プロフェッサーXが羊となってその謎を追うという、思いがけない形での『X-MEN』コンビ再共演が実現した。スーパーヒーロー映画の文脈を逆手に取った、映画ファンの心をくすぐる心憎い配役なのである。
