・音楽で焼酎を育てる?
醸造工程の見学を終えて、せれなさんに連れられ黒糖焼酎の試飲ができるという別棟へ。
中に入り貯蔵庫に案内される。ドアを開けると、そこには……
えっ? ミニシアター??
部屋の両端にびっしりと並べられた樫樽(かしだる)の間に、椅子が並び、スクリーンがある。ここでライブやイベントを開催することがあるとのことだ。
そして後ろを振り返ると、西平酒造で作られているブランド焼酎の試飲スペースが。
ここで、せれなさんが一つ一つ説明してくれながら、試飲させてもらう。
もう美味すぎて、この時点で満足だ。ひと通り飲み終えると、せれなさんが「うちの1番の変わり種をご紹介しますね」と奥の扉に案内してくれた。
すると……
なんじゃ、こりゃ〜!!!
樽の真横に、木製のスピーカー。しかも、しっかりアンプに繋がっている。
これは一体……? と聞くと、「このスピーカーで大音量の音楽を鳴らして、ジャンル別にどんな振動の違いが出るか実験しているんです」とのこと。
その名も「Nishihira’s Sonic Aging(ニシヒラズソニックエイジング)プロジェクト」。流しているジャンルは、ハウス・レゲエ・ヒップホップ・ラテン・ロック・島唄の6種類。
「焼酎の樽が振動で揺れると、中の焼酎も揺れて、樽の色素や成分の抽出度合いが変わるんですよ。実際、6ジャンルの中で一番揺れているのがレゲエ、一番揺れていないのが島唄です」と、せれなさんが説明してくれた。
しかも出勤と同じタイミングの朝にスイッチを入れ、毎日8時間流し続けているというから徹底している。計算すると、1年で約2000時間。マジでこだわりがすごすぎる!
ただ話を聞いただけでは、同じ焼酎でも音楽を聴かせることで味が変わるというのは、にわかに信じがたい。「ほんとに味、変わるんですか?」と半信半疑の私に、せれなさんが場所を移して、2階のテイスティングルームへ案内してくれた。
テーブルには、6本の小ぶりなボトルが並び、それぞれ「Latin(ラテン)」「Hip-Hop(ヒップホップ)」「House(ハウス)」「Rock(ロック)」「Reggae(レゲエ)」「Shimauta(島唄)」のラベルが貼られている。
私は迷った末、「島唄・レゲエは絶対飲みたい。あと1本はジャンルが分かりやすいロックで」とオーダーした。
3本を並べてみて、まずビックリ。色が違う。一番濃いのはレゲエ、一番淡いのは島唄だ。「一番揺れているレゲエは、樽の成分が一番抽出されているので色も濃くなるんですよ」と、せれなさん。
島唄を口に含むと、まだ少しアルコール感が残っていて、角がある若々しい印象。続いてレゲエ。口当たりはまろやかで、樽の香りが濃厚、ほのかな苦みまで感じる。そしてロックは、両者の中間にどっしりとした厚みが加わった感じ。
同じ原酒、同じ樽、同じ環境、同じ期間……違うのは「聴かせる音楽」だけ。なのに、ここまで味わいが別物になるとは……! まさに “舌の上でフェスが始まった” 気分だ。
さらに「必ずしも1番揺れたレゲエが美味しいというわけじゃなくて、好みが絶妙に分かれるんです」と、せれなさんは言う。音楽と一緒で、正解がない。だからまだちゃんと大々的には売り出していないのだとか。
続けて「今後はアーティストとコラボしたり、世界の民族音楽を聞かせてみたり、いろいろやってみたくて……」と、目を輝かせるせれなさん。
マジで熱量がハンパない。なるほど……たとえば好きなアーティストの代表的なアルバムを1年間聴かせ続けた黒糖焼酎が、“限定販売” みたいな感じで販売されていたら、私なら少しくらい値が張っても、たぶん速攻で買うと思う。
しかも、それが世界的に広がったら……いや、スケールがデカすぎる! さらに聞いたところ、すでにロンブーの田村淳さんが主催しているオンラインサロンとコラボして、オリジナルの黒糖焼酎を完売した実績があるという。
・まとめ
長年の伝統を守りながら、音楽で焼酎を育てるという度肝を抜く挑戦を続ける西平酒造。事前のリサーチを何もしないまま、ノリで酒造見学に申し込んだにもかかわらず、こんな感動に巡り合うとは想像もしていなかった。
酒蔵見学は予約制なので、奄美大島に行く予定のある方は、ぜひ事前にホームページから予約して訪れてみてほしい。耳で聴く音楽もいいが、舌で味わう音楽というのも、なかなかオツだぞ!
