社会が防ぐべき“勝者の暴走”

今回の研究結果は、男性の攻撃的行動に関する先行研究とも部分的に一致しています。
スポーツの世界では、試合に勝利した男性がテストステロンやアドレナリンの分泌増加によって興奮状態に入り、挑発や攻撃的な態度をとりやすくなるというデータがありますが、それが性的攻撃にまで波及する可能性を示した点が新しいのです。
ただし、すべての男性が“勝利”で即座に性的攻撃に向かうわけではありません。
今回の実験では、「衝動的・反社会的」特性よりも、「対人操作や感情の希薄さ」のほうが大きく影響していました。
サッカーの試合でゴールを決めた選手が、味方と喜ぶどころか相手を煽り始めるケースと、勝っても相手を称えるケースの違い――その背後には、もともと備わっている人格特性があるのかもしれません。
一部の研究では「挫折や敗北」が暴力行動の引き金になると考えられてきましたが、本研究はむしろ“勝利による自信と権力感”が危険要因になり得ることを示唆しています。
とりわけ、相手への共感が乏しいタイプの場合、自分の快楽を優先し、嫌がられているかどうかをまったく顧みない行動をとる恐れがあるのです。
こうした結果は、男性の性的攻撃行動が「負け犬の遠吠え」だけでは説明できないことを改めて示しています。
ライオンの群れでボスを奪い取ったオスがさらに群れを支配するように、人間社会でも“頂点に立った”という認識が引き金となり、周囲を踏み台にする行動が生まれるケースがあるのかもしれません。
もしこのタイプの人間が独裁者となり、勝てば勝つほど暴走を高めていったとしたら、社会に悲惨な結果を残すかもしれません。
こうした知見は、社会的地位と人格特性の相互作用を理解し、性的暴力やハラスメントを防止するための施策を考える上で有用です。
これまでは、敗北時のフラストレーションをケアする視点が強調されがちでしたが、勝利者の暴走を防ぐ視点も同様に重要かもしれません。
特に、権力や名声を得た人が自制を失って暴走する事例は、ニュースなどでもたびたび取り上げられてきました。
今後の課題としては、大学生男性に限られたサンプルだけでなく、多様な年齢層や文化圏、職場など現実社会の文脈で再現研究を行う必要があります。
また、勝敗のシナリオをどう設定するかによって結果が変わりうるため、実験手法の改善と検証も重要になるでしょう。
最終的には、サイコパス的特性を持つ男性が勝利から得る“優越感”や“支配欲”をいかにコントロールするか――組織や教育現場、コミュニティなどで具体的な対策が求められます。
スポーツやビジネスの世界でも“勝者が牙をむく”前にブレーキをかける仕組みを整えることが、長期的には社会全体の安全や安定につながるかもしれません。
元論文
Effects of Intermale Status Challenge and Psychopathic Traits on Sexual Aggression
https://doi.org/10.1002/ab.70025
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

