教育総合展『EDIX東京2026』において、Appleは「Appleが引き出す、学びの可能性」と題した特別講演を実施した。登壇したのは、Appleのワールドワイド教育プロダクトマーケティング担当シニアディレクター、リヒティ・ドミニク氏らである。
筆者は、2018年3月のシカゴの教育イベントでのiPad(第6世代)発表を含め、数多くの教育市場でのアップル製品の様子を取材してきた。
そもそも教育とは何だろう? 勉強して、いい学校に行って、いい会社に就職するためのもの? そうではないはずだ。人生を豊かに生きていくための知恵と知識を身に付け、学習者の心と身体を育てていくこと……そのためにデジタルデバイスが有効であるなら活用するべきた。数多くの学校を取材していく中で、そのためにアップルのデバイスが非常に役に立つということは見てきたつもりだ。

今回の講演全体を通して繰り返し語られていたキーワードは『Agency(エージェンシー)』、つまり学習者自身の主体性だった。エージェンシーという言葉は日本語に訳しにくいが、ざっくり言うと、『自分の意思で行動し、世界に影響を与える力』という感じの言葉だ。
たんなる自由ではなく、『自分で選ぶ』『決める』『責任を持つ』的なニュアンスを持つ。それゆえ『自己効力感』『主体性』『能動性』『自律性』と訳されるが、ぴったりする日本語はない(もしかしたら、そういう日本語がないこと自体が問題なのかもしれない)。この記事ではそのまま『Agency』と表記する。
アップルは、単にiPadやMacを学校に導入する話をしていたわけではない。むしろ、「学習者がAgencyをもって学びを選択し、自分の興味から学びを深めていく環境を、どうテクノロジーで支えるのか」という思想そのものを語っていたように思う。
Agencyを持って学んでいると感じている学生はわずか7%
講演の冒頭で示されたのは、Center for Universal Educationの調査結果だった。
それによれば、「自信を持ち、回復力があり、積極的に学びに関与している」と感じている学生は、わずか7%しかいないという。
アップルはこの数字を重く受け止めている。
だからこそ、これからの教育で重要なのは『Agency』だと説明する。アップルが定義するAgencyとは、『自分にとって最適な学び方を、自分自身で選択し、主体的に取り組む能力』である。
これは単なる『自由学習』ではない。
例えば、蝶の成長過程を観察する子ども。ARで地球の自転を理解する生徒。Keynoteを使ってプレゼンを作り、Pagesで学校新聞を共同編集する高校生。アップルは、こうした“自分から学びに向かう状態”を支える道具としてiPadやMacを位置付けている。

実際に、講演中に何度も出てきたのは、『critical thinking(批判的思考)』『creativity(創造性)」『collaboration(協働)』といった言葉だった。
つまりアップルは、先生が教壇に立ち教科書を読む、知識伝達型の教育よりも、『自分で問いを立て、自分で調べ、仲間と作る』方向へ教育が変化していると見ているのである。
アップルは『教育専業企業』ではない。しかし教育をDNAだと言う
興味深かったのは、何度も「Education is in Apple’s DNA(教育はアップルのDNAに刻まれている)」と語っていたことだ。
もちろんアップルは教育専業企業ではない。
しかし、初代Apple IIの時代から、Appleは学校市場を極めて重要視してきた歴史がある。米国では『学校でAppleに触れた世代』が、そのままクリエイターや開発者になり、Apple製品を使い続ける文化を形成してきた。
今回の講演でも、その思想はかなり強く感じられた。
単に『性能が高い』『AIが使える』ではなく、『学びの体験そのものを設計する』という言い方をしていたのが印象的だった。
アップルは教育向け製品について、以下の4つを繰り返し強調していた。
Designed to engage(学習への関与を促す)
Designed for expression(表現のために設計されている)
Designed to last(長く使える)
Designed to ignite(情熱に火を付ける)
つまり、教育用端末を『安価な消耗品』としてではなく、『長期的に学びを支える道具』として設計している、というメッセージである。
