永田町取材歴50年超の政治評論家・小林吉弥氏が「歴代総理とっておきの話」を初公開。今回は岸田文雄(下)をお届けする。
ロシア外相も驚いた“永田町最強クラス”の酒豪伝説
岸田文雄元首相が政界屈指の酒豪であることは、まさに知る人ぞ知るところである。岸田はかつて安倍晋三内閣で、戦後最長の4年7カ月にわたり外相を務めていたが、当時の外務省担当記者が、そのときの酒にまつわるエピソードを明かしてくれた。
「岸田氏は自他ともに認める酒豪で、ウイスキー、日本酒、なんでもござれ。いくら飲んでも乱れることがなく、ロシアのラブロフ外相とウォッカの飲み比べをした際は、あまりの強さに向こうが呆気に取られていたくらいだった。
ちなみに、自民党内で2番目に酒が強いとされているのが、岸田氏の次に首相になった石破茂氏で、こちらも飲んで乱れることはないが、会話が真面目すぎて面白味に欠ける。若手議員には“聞く耳”を持っている岸田氏のほうが好まれ、人の集まりがいいのです」
昨今の岸田はといえば、高市早苗首相の後継をめぐり、旧岸田派の再構築とグループの結束強化を図っている。岸田自身は「キングメーカー」を目指し、息のかかった議員との“酒交”に余念がないという。
さて、その岸田は今日、戦後間もなくの自由党の流れを汲み、吉田茂の弟子にあたる池田勇人が創設した「宏池会」を継承している。
自民党初の派閥である宏池会は、池田、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一と4人の首相を輩出しており、岸田が5人目。これまで「軽武装、経済重視」を掲げてきた保守本流の“名門”で、一般的にはハト派のイメージで知られている。
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“朝令暮改”と批判された岸田政権の実像
しかし、令和3(2021)年10月、第100代首相に就任した岸田は、こうしたイメージとは“色合い”が違っていた。
例えば、首相になって約1年後には「安保関連3文書」を改定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決める一方、防衛費は国内総生産(GDP)比2%まで増やすとして、防衛力強化のための増税方針を打ち出した。SNSで揶揄された「増税メガネ」とのあだ名も、このあたりに由来している。また、国会での改憲論議にも、タブー視せずの姿勢で臨んでいた。
こうした従来の宏池会出身者とは一線を画したように見える岸田政権は、まず折からのコロナ禍への対応と経済活動の再開、この2つをどう両立させるか、冷えている中国、韓国との関係に、どう対応していくかなど、難問山積のなかで出発した。
とくに大きく旗を振ったのが、安倍元首相の「アベノミクス」の向こうを張るように、競争と規制緩和を重視した“新自由主義的政策”からの転換であった。格差是正を窺い、経済成長の果実をとりわけ中低所得者に手厚く分配するとして、超大型の経済対策「新しい資本主義」を標榜、こうした提言には国民からの拍手も多かった。
しかし、コロナ禍でダメージを受けた個人向けに、経済対策の目玉とした「給付金」をめぐり、政権のドタバタぶりを露呈。これが自民党内の反岸田勢力を勢いづかせるとともに、国民に大きな失望感を抱かせることになった。岸田政権は当初の方針を短期間で転換するなど、まさに“朝令暮改”を連発したのである。
自民党ベテラン議員が当時を振り返る。
「岸田首相は端的に言えば、“状況対応型”の政権運営だった。最大派閥の安倍派など、周囲の意向をひとまず分析。そのうえで、やるとなったらあまり話は聞かずに、ゴーといった具合だ。結果、党内調整、根回し不足を露呈し、あまり深く考えた政権運営ではないと、見破られた格好でもあった。よく言えばスピード感、決断力があるということになるが、一方で八方美人的な“やってる感”が目立った政権運営でもあった」
それでも、岸田政権は令和3年の衆院選と翌年の参院選に勝利したことで、以後、衆院の解散がなければ3年間は“無風”で政権運営に取り組めるとされ、当時のメディアからは「黄金の3年」の言葉が与えられていた。
