偶然耳にしてしまった一言
その日は早めに仕事を切り上げ、夕方の買い物を済ませていました。アパートの角を曲がろうとしたとき、塀の向こうから息子と友達の声が聞こえてきたのです。
「俺、今日もコンビニで好きなの選んできた。マジ最強じゃん」「いいなー、うちは弁当だわ」そのあとに続いたのが、息子の声でした。
「うちのお母さんはお弁当作ってくれないからさ」
買い物袋の取っ手を握り直したまま、私はその場から動けませんでした。
作り続けてきた朝の意味
家に帰ってからも、息子の声が頭の中で繰り返されていました。私は毎朝5時半に起きて、息子の好物を考えながら弁当箱に詰めてきたつもりでした。彩りも、おかずの配分も、忙しい朝に少しずつ工夫してきたのです。
それなのに、息子は友達の前で「作ってくれない」と言った。理由を問いただしたい気持ちと、息子に恥をかかせたくない気持ちがせめぎ合って、夕食の席では何も言えませんでした。
息子はいつも通り「ごちそうさま」と笑っていて、その表情がよけいに分からなくなりました。
