日本人でまだ誰もなし得ていないボクシングウェルター級の世界王者。その偉業に二人三脚で挑んでいるのが、渡嘉敷ボクシングジムの渡嘉敷勝男会長と、昨年、全日本ウェルター級新人王に輝いた石井竜虎選手だ。親子以上に年の離れたふたりだが、遠慮は一切なし。確固たる信頼関係が垣間見える師弟インタビュー。〈前後編の後編〉
入門当時は“トカちゃん”を知らなかった
――小6で入門した竜虎選手に、他の子どもたちとは違う本格的なトレーニングさせていたそうですね。初めからモノが違った?
渡嘉敷勝男(以下、渡嘉敷) その時のことはあまり覚えてないんです(笑)。まぁ普通の子供は健康のために通ってるから自由に遊ばせてたんだけど、多分やれると思ったから(本格的に)やらせたんでしょう。
石井竜虎(以下、竜虎) こっちはプロになる気もない、というかプロの存在も知らなかったからあっちに混ざりたいなーって思いながらやってましたよ。
――渡嘉敷会長は80年代から90年代にかけてタレントとしても大活躍でしたが、竜虎選手はそのことを知らない……?
竜虎 全然知らないです。会長が世界チャンピオンだったことも知らなかったですから。ジムに飾ってある現役時代の会長の写真も誰?って感じ(笑)。
小学生の頃、ジムでストレッチしてたらめちゃくちゃでかい声の人が入ってきて、いきなり「一緒に世界目指そうぜ」とか言ってきたんですよ。
なんだこの人って思ってたんですけど、母親やおばあちゃんは“トカちゃん、トカちゃん”ってみんな知ってて。YouTubeで会長の現役時代の動画を見たら、今と全然違うんで見方が変わりました。
――現役時代の会長のスゴイと思うところは?
竜虎 やっぱり手数ですね。会長はめちゃくちゃファイター。ライトフライ級でも背の低い方(156センチ)なのに、とにかく中に入ってずっと手を出すんですよ。
ボクシングって一番多い手数でもワンツースリーフォーまで。それが会長は延々と手を出し続けるんです。それがどんな相手でも変わらないし、最後はスタミナで競り勝つ。一番心が強い人だと思います。どれだけ強い相手でも真っ向勝負でいくんで。
――ただ声が大きいだけの人ではなかった。
竜虎 本当ですよ。ボクシング経験がないのに始めて3年ちょっとで世界チャンピオンになってる。しかも、今と違って当時はボクシング団体って2つ(WBA、WBC)しかないのに、それで5度も防衛してるんですから。そのスゴさは自分がプロになってさらにわかりました。
渡嘉敷 私は本当に才能がなかったから練習量だけでもこなさないと周りの才能ある人、とくに沖縄の先輩の具志堅(用高)さんには追いつけませんから。
竜虎 練習が大事なのはわかるけど、ただ、もうちょっと僕に対して伝え方があったと思うんですけど……(笑)。
めちゃくちゃだったスパルタ指導
――そうなんですか?(笑)。竜虎選手から見て、会長はどのような指導者?
竜虎 めちゃくちゃな人ですよ(笑)。
渡嘉敷 え、そう?
竜虎 だって中2になってすぐ、具志堅さんのジムにいる選手とスパーをやることになったんですけど、その人が高校のアマチュアチャンピオンクラスでプロ転向してからも全部KOで勝ってるような人で……。
体重差もあるし向こうのトレーナーさんも「こいつマジでパンチありますよ。ホントに大丈夫ですか?」って心配してるのに会長は「大丈夫、大丈夫」って聞かない。いや、絶対ムリだって(笑)。そんな感じで、出稽古の相手が全員プロみたいな日々でしたからね。毎日血だらけです。
渡嘉敷 あの頃お前、もう中学生チャンピオンだっただろ?
竜虎 まだ13歳でしたよ(笑)。
――(笑)。
渡嘉敷 いや、こいつは才能あると思ったから。私も入門して3ケ月で世界チャンピオンだった具志堅さんとバンバンやってた。ボクシングって相手が強くて自分が危険にさらされるほど才能が発揮されるものなんです。
実際、強い相手とスパーを重ねてどんどん成長して中学生チャンピオンになったわけだから。
――会長の指導方針は間違ってなかったんですね。
竜虎 サウスポーだって、会長から半ば強制的に変えさせられましたからね。
渡嘉敷 サウスポーは世界に圧倒的に少ないのに、チャンピオンが非常に多い。日本人でも世界タイトルを10回以上防衛した5人のうち4人がサウスポーなんですよ(具志堅用高、山中慎介、長谷川穂積、渡辺二郎)。それくらいサウスポーって研究されづらい。
私は彼によく言ってるんです。「お前が日本人初のチャンピオンになるためにこの枠(ウェルター級世界王者)が空いてるんだぞ」と。ウェルターでチャンピオンになるチャンスがあるとしたらサウスポーなんです。

