・離さないで
あれじゃない、これじゃないとページをめくっていたら、懐かしい言葉が出てきた。
「迷ったら行けばいい。先頭を行ってる奴に、手本なんかないんだから」
たしか友達に教えてもらった言葉だ。映画だか小説だかに登場するセリフのひとつだったと教えられたはず。いい言葉だと思って記してあったんだよな。何事にも迷って足踏みしてしまう性分だった私は、この言葉を自分に言い聞かせていたものだ。
今はこの言葉の助けがなくても、何でもやってみようと自然に思える。今になって調べてもこれが何のセリフだったのかはわからない。検索してもAIに聞いてもめぼしいものは当たらないけど、良い言葉だ。
いつでもどこでも走り書きをしていたもんだから、引きちぎったノートの切れ端みたいなものも、ページの間に挟まっていた。そのうちの1枚を目にして、胸が張り裂けそうになった。
「俺はクズです
どうしようもないクズです
人の気持ちのわからないクズです
何の役にも立たないクズです
仕事もできないクズです
人をねたむクズです
後悔ばかりしているクズです
泣き言ばかり言うクズです
こんなクズの友達を
俺はみんな愛してます
ただ愛してます」
私はひ弱で非力だった20歳の頃。屁理屈ばっかりを募って、不満と愚痴しか言わないイヤな人間だった。そんな自分をどうすることもできなくて、前向きに物事を捉えられない自分自身を嫌悪していた。
優しく言葉をかけてくれる友達にも冷たく接して、「お前に俺の気持ちがわかるか」と突き放したものだ。ただ冷たくいじけたつまらない人間でね。何かを変えなきゃいけない。わかってたのに、何から変えたらいいのかわからなかったんだ。
夜は苦痛だった。止めどなく自己否定が頭にあふれてきて眠れない。朝が苦痛だった。また何をやっても後悔を積み重ねるばかり。消えてしまいたかった。役立たずなクズ、何のために自分がいるのかわからなかったんだ。
いつ頃、何をきっかけにして変わっていったのかは思い出せない。きっと多くの人が危なげな自分を支えてくれたんだと思う。できないなりに小さなできることを重ねた結果が今なんじゃないかとも思う。
少しは何か人の役に立ってるって実感を、どこかで得たのかもしれない。わからないけど、今はちゃんと自分を好きでいられることを、少しは誇らしく思える。
だから、自分を好きって良いことじゃないかな。こんな私のような遠回りではなく、ちゃんと自分を好きでいられる人は素敵だ。過剰な自己肯定感が鼻につくという気持ちもわかるけど、自分とちゃんと向き合った人ほど、最高の状態の自分を知っているんじゃないだろうか。
とかく若い頃は、人と自分を比較してしまって、自分を好きになれないという感情に陥るもの。そんな若い方がいたら、伝えてあげたい。いずれちゃんと自分を好きになれる。心配しなくていい。今しか味わえない気持ちを大事にしてください。私はもうあの頃に戻れない。
もしも好きな自分に出会えたら、誰に何を言われても絶対に離さないで。
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24
