うまく言えなかった一枚
彼女がずっと好きだという、あの映画。学生の頃から何度も話を聞かされてきました。正直に言えば、僕にはその面白さがよくわからないまま、ここまで来てしまったのです。だからこそ、もうすぐ公開されると知ったとき、僕は迷っていました。何も知らないまま一緒に観て、また彼女をがっかりさせてしまうのではないか。そんな不安が頭を離れませんでした。考えた末に、僕は先行上映のチケットを一枚だけ取りました。一緒に観る前に、ひとりで予習をしておこうと思ったのです。
『今は聞かないでほしい』と言った理由
予習のことを切り出せずにいたとき、彼女のほうから尋ねてきました。「ずっと楽しみにしてたあの映画、チケットもう取ったの?」。隠すのも違う気がして、僕は正直に答えました。「うん、取った。一枚だけ」。その瞬間の彼女の顔は、今でも忘れられません。「一枚だけ?私の分は?」と聞かれて、僕は彼女から目をそらしてしまいました。ひとりで予習するつもりだなんて、子供じみていて格好悪い。そう思うと打ち明けられず、「ごめん。今は聞かないでほしい」とだけ返してしまったのです。
