検死官が見た老人の死の真相は、我々の想像を絶する孤独に満ちている。予期せぬ凍死や入浴中の事故、そして自死の背景には、いったい何があるのか…。
老人の生を支えてきたはずの絆が、いつしか彼らを追い詰める凶器へと変わってしまうことさえある悲劇を防ぐために必要なこととは何か。
医学博士の上野正彦氏の書籍『死体が伝える最後の想い』より一部を抜粋・再構成し、死体から見えた背景を追う。
暖かい布団の中で凍死した事件
暖かい布団の中で凍死した事件があった。
凍死がどうして家の中で起きるのか。しかも布団の中で、と不思議に思われる方もおありかもしれない。普通、家の中で凍死するということはちょっと考えにくい。しかも布団の中に入っていながらだ。
凍死したのは一人暮らしの老人だった。
病気で寝たきりのため、何日も食事をとっていない。すでに自力でとることもできない。そうこうしているうちに、本格的に体力がなくなってくる。トイレに行く力さえ失われてしまっていた。
そしてあるとき老人は布団の中でおしっこを漏らしてしまう。
おしっこを漏らすと、はじめは温かいが、徐々に温かかったおしっこも冷めてきて、体温を奪っていく。寒い冬で暖房もない。北風が吹き抜けるような昔の家だと、家の中でも寒いから、濡れている布団で体温が奪われて凍死してしまうのだ。
以前、そういう変死体の検死を行ったことがある。
それは一例だけではない。何例もあった。年をとってくると、われわれが考える以上に予期せぬことで死にいたる。老化の一種と言ってしまえば、それまでであるが。
なぜ浴槽で溺死してしまうのか
たとえば、こういうケースもよくあることだ。
お年寄りがお風呂に入っていて浴槽の中に沈んで溺死する。
溺れて死んだと処理される。酔っぱらったり、お風呂の中で居眠りして、あるいはツルッとすべって、浴槽の中で溺れて沈んでしまって死ぬ。
しかし、実は居眠りなどで溺れて死ぬという状況はめったにないのだ。普通の状況で湯船の中に沈んでしまえば、気管に水が入ってきて苦しくなり、たとえうつらうつらと眠っていたとしても苦しさで目覚めることになる。
また、一瞬フラフラとめまいがして倒れて溺れたとしても、気管に水が入って息苦しくなるわけだから、強い刺激を受け、体もはっと目が覚め、とっさに防御姿勢を取れるはずだ。
それができないで溺れて死んでしまうとは、いったいいかなる状態なのか。
たいていの場合、入浴中に死にいたるような病的発作を起こしていると考えていい。たとえば心筋梗塞とか、あるいは脳出血の発作とか。そういう発作があって意識を失って溺れてしまう。それで助けを求められないから、死んでしまうのだ。
「長い風呂だなあ」と家族が気づいて不安になってお風呂場へ行き、湯船の中に沈んで死んでいるおじいちゃんやおばあちゃんを発見する。
事故死になるか。病死になるか。保険会社が支払う保険金の問題にもかかわってくる。保険金の支払いが違ったりするから、必ず論争になるが、だいたいは事故死ではなくて病死だ。

