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1億年前の虫は『カニのハサミ』を持っていたと判明

1億年前の虫は『カニのハサミ』を持っていたと判明

1億年前の昆虫は「カニのハサミ」をどうやって獲得したのか?

1億年前の昆虫は「カニのハサミ」をどうやって獲得したのか?
1億年前の昆虫は「カニのハサミ」をどうやって獲得したのか? / 琥珀の中に虫たちが閉じ込められているのがわかります/Credit: Haug et al., 2026 / Insects / CC BY 4.0

新種の素性は明らかになりました。

次に気になるのは──「この不思議なハサミは、いったいどうやって生まれたのか?」という問いです。

研究者たちは、化石を詳しく分析する中で、ある重要な進化のシナリオを示唆しました。

それは、「この新種のカニ型ハサミは、もともと折り畳みナイフ式だった脚から、少しずつ作り変えられて進化した」というものです。

もともとあった折り畳みナイフ式の脚を、少しずつチューンナップして、最終的にペンチ式のハサミへと改造していったというプロセスが垣間見えるのです。

先に触れたように、「本物のハサミ」を持つ昆虫は、これまで知られていた3つのグループ(アザミウマ、カマバチ、カニカメムシ)でしたが、今回の研究により新種を加えた、合計4グループになることがわかりました。

研究者たちはこれらはどれも同じプロセスを経て折り畳みナイフ式から本物のカニ型のハサミになった可能性があると考えています。

しかしこのプロセスに加えて、そのハサミが虫のどの部分を変化させて作られたかという点についても大きな違いがありました。

昆虫の脚は、カニやエビの脚と同じように、根元から先端まで、いくつもの『節(パーツ)』が連結してできています。

食卓のカニ脚を思い浮かべると、太い付け根、すらりと伸びる中央、その先の細かい部分、そして爪──と、いくつかの節に分かれています

研究者たちは新種も加えた4つのハサミ昆虫は、この一連の節のうち、「ハサミの材料」した部分が全て異なっていることに気付きました。

具体的には:

カマバチ ── 脚のいちばん先端のパーツ+爪

カニカメムシ ── 中央のパーツ+先端

アザミウマの一部 ── 根元のパーツ+中央(ただし真の鋏脚かは議論の余地あり)

今回の新種 ── 根元のパーツ+中央+先端

4種類の昆虫が、まったく違う部品の組み合わせから出発して、結果的に同じ「ハサミ」という機能を作り上げていたわけです。

なぜ別々の系統の昆虫が、違う材料を使ってまで、似たような「ハサミ」にたどり着くのでしょうか?

研究者たちが示唆した答えは、シンプルかつ深いものでした。

「形を主に決めているのは、血のつながり(系統)よりも、むしろ機能(使い道)の制約のほうではないか」

たとえば、空を飛ぶという機能を持つ生き物は、鳥でも、コウモリでも、昆虫でも、結局みんな似たような「翼」を持っています。

同じことが「ハサミ」にも当てはまります。

「獲物をガッチリ挟みたい」という同じ目的に対して、自然が出せる答えの形は、決まった範囲に収束する。

だからこそ別々の系統の昆虫たちが、それぞれ独自に「カニのハサミ」を発明してきた──そう考えられているのです。

生物学で「収れん進化」と呼ばれる現象が、虫のハサミにも起きていたのです。

加えて研究者たちは、ハサミの形そのものに、「それがどうやって生まれたのか」を物語る手がかりが隠れていることに気づきました。

注目したのは、ハサミの「固定の指」──動かないほうの指の向きです。

生まれつきハサミだったカニの場合、固定の指は、矢印の指す「前方」へまっすぐ伸びています。

ところが、折りたたみナイフ式から進化したハサミ──今回の新種と、近縁のカニカメムシの仲間では、固定の指が矢印の「真横」へとニュッと突き出していたのです。

彼らのハサミは「ゼロからの発明」ではなく、「折り畳みナイフ式の脚の”改造”」で生まれたものなので、改造のなごりとして、固定の指が横向きに残ってしまった、と考えられるのです。

つまり「固定の指が横向き」という特徴は、そのハサミが折りたたみナイフ式から進化してきたことの”証拠”になり得るのです。

この関係を逆に使えば、未来の発見を予測できます。

研究者たちはこう示唆しています。

「今後、別の系統でも『折り畳みナイフ式からハサミ式への進化』が見つかれば、そのハサミの固定の指も、きっと横向きに伸びているはずだ」と。

進化はランダムでデタラメに見えますが、実は一定の傾向に縛られている。

だからこそ、形に残された小さな”改造のあと”から、まだ見ぬ化石の姿さえ先取りできるのです。

これは科学にとって、未来の発見を先取りする、価値ある「予測」だと言えます。

1億年前の森は、今より「進化の実験場」だった

1億年前の森は、今より「進化の実験場」だった
1億年前の森は、今より「進化の実験場」だった / Credit:Canva

今回の発見は、白亜紀の森が、私たちの現代よりも多彩な世界だったことも物語っています。

論文によると、ミャンマー琥珀の中から見つかる「物をつかむ脚」のバリエーションは、一部については現代の昆虫を上回るほど豊かだったというのです。

私たちはなんとなく「昔の生き物は今より単純で、進化していくにつれて多様化してきた」とイメージしがちです。

でも実際には、少なくとも「物をつかむ脚」については、1億年前の森のほうが、今より活発に進化の実験が行われていた可能性があるのです。

しかも、ミャンマー琥珀からは「物をつかむ脚」だけでなく、その逆──捕食者から身を守るための様々な防御装置もたくさん見つかっています。

トゲ、擬態(ぎたい:周囲に紛れて目立たなくなる工夫)、カモフラージュ。

攻撃と防御の道具立てが、両方とも充実していたのです。

加えてこの化石にはもう一つ、研究者たち自身も後から気づいた、驚きの事実が隠されていました。

ハサミを構えた1億年前の小さなハンター──と思いきや。

実はこの化石、まだ大人にもなりきれていない、森をさまよう”幼い個体”だったかもしれないのです。

(カメムシの仲間は、チョウのように「さなぎ」を経ない成長をするため、この若い段階は専門的には「若虫(じゃくちゅう)」と呼ばれます。)

母を探していたのか、新しい狩り場を探していたのか、理由は誰にも分かりません。

けれども確かなことは、1億年前のある日、まだ大人にもなりきれていない小さな昆虫が、不釣り合いに大きなハサミを構えながら、白亜紀の森をさまよっていた、ということです。

そしてその子は、ある日ポタリと落ちた樹液の罠に捕まり、1億年もの長い長い時間をかけて、現代の私たちのもとへやってきました。

研究チームは今後も、ほかの琥珀化石を調べていくとしています。

参考文献

Paleobiology: fossil true bug with remarkable claws
https://www.lmu.de/en/newsroom/news-overview/news/paleobiology-fossil-true-bug-with-remarkable-claws-2c8ffe1e.html?utm_source=chatgpt.com

元論文

A True Bug with a True but Unique Chela in 100 Million-Year-Old Amber †
https://doi.org/10.3390/insects17040431

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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