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「死んだ母の乳を吸う赤ん坊」…2万以上の遺体を見てきた監察医が今も涙する“三つの光景”ー過酷な現場から伝わる家族の思い

「死んだ母の乳を吸う赤ん坊」…2万以上の遺体を見てきた監察医が今も涙する“三つの光景”ー過酷な現場から伝わる家族の思い

亡くなった母親のおっぱいを吸う赤ん坊

赤ん坊の姿が脳裏に焼きついて離れない現場もあった。

検死へ向かった。部屋に入ると、私は生ツバを飲み込んだ。

それは地獄絵だった。

母親が死んでいた。そこまではわかる。

亡くなった母親の胸がはだけていた。

そして、その胸のおっぱいを赤ん坊が吸っていたのだ。

赤ん坊と若い母親の二人暮らしだったが、日ごろから母親が病弱で、ある日、突然亡くなってしまったのだ。

しかし、赤ん坊のほうは、母親が亡くなっていることを知る由もない。ただお腹を空かせている。それで、生きるために母親の胸元をはだけて必死におっぱいを吸っていたのだ。

母親は、まだ死んだばかりだったからそんなに冷たくはなっていなかった。死亡推定時刻を逆算すると、死後三、四時間ほどだった。

母親が亡くなっていることもわからずに、自分の命のために懸命におっぱいにしゃぶりつく赤ん坊の姿がそこにあったのだ。

立ち尽くす子どもたち

最後のシーンは、お父さんが自殺してしまった現場だろうか。

お母さんが病死して、お父さんは生活に疲れて自殺してしまった。私が検死するため現場に行くと、二人の子どもが父親の遺体の前でどうすればいいかわからず途方に暮れたような表情で立ち尽くしていたのが、今でも目に焼きついて離れない。

現場にいた子どもは、中学生ぐらいの女の子と小学生くらいの男の子だった。

父親の亡骸を前に呆然と立ち尽くしている。

検死も必要だったが、子どもたちの今後がそれ以上に心配になった。

思春期のとても大事な時期に、母親が病死をし、残った父親も後を追って自殺してしまったのだから。

私は立ち会ってくれた民生委員の人に、彼女たちのその後をくれぐれもよろしくと伝えた。

そういった悲しい現場を数多く踏んできたからか、私は社会福祉の充実について積極的に発言するようになったし、退職後、社会福祉の仕事をささやかだが、お手伝いしている。

修羅場とは言わないかもしれないが、切ない現場に立って、仕事を超えた厳しさを感じることもあったし、単純に仕事と割り切れない場面に数多く接してきた。

私は多くの検死を通し、生きるということの喜び、そして命の尊さをあらためて考え
させられた。

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