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牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明

牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明

牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明
牛のゲップを「メタンまみれ」にしてた真犯人、ついに判明 / Credit: Xie et al., Science, 392, eadv4244 (2026)

牛や羊などの家畜のげっぷには、地球を温める力の強いメタンガスがたっぷり含まれています。

世界中で人間の活動から出るメタンのうち、およそ3割が家畜由来とされており、地球温暖化を考えるうえで決して無視できない存在なのです。

ところが、胃のどこで、誰が、どうやってメタンを増やしているのか──その仕組みの中心部分は、約50年ものあいだ誰も突き止められませんでした。

中国の中国科学院水生生物研究所(IHB)を中心とする研究チームが、ついにその答えを見つけました。

カギを握っていたのは、牛の胃のなかにすむ小さな生き物の細胞のなかに、こっそり隠れていた謎の部品(細胞小器官)でした。

研究内容の詳細は、2026年4月30日付で科学誌『Science』にて発表されました。

目次

  • 牛のげっぷは、なぜ地球温暖化を起こすのか?
  • 細胞の奥で見つかった、メタン生成の加速装置
  • 個体差の謎にも答え、そして応用への道へ
  • 繊毛虫は何を取り込んでしまったのか?

牛のげっぷは、なぜ地球温暖化を起こすのか?

牛のげっぷは、なぜ地球温暖化を起こすのか?
牛のげっぷは、なぜ地球温暖化を起こすのか? / Credit:Canva

牛のゲップはメタンを大量に含む

牛のげっぷが温暖化に関係していると聞いても、最初はピンと来ないかもしれません。

「あのげっぷ」に地球環境を変えるほどの威力があるとは到底思えないからです。

けれど牛のげっぷには、メタンガスが大量に含まれています。

このメタンは、よく聞く二酸化炭素と比べて、何十倍もの強さで地球を温めてしまう、なかなか厄介な気体です。

世界の人間活動から出るメタンのうち、牛や羊といった反芻動物だけで、その3割近くを占めているとされています。

なぜ牛だけが、これほどメタンを出してしまうのでしょうか。

理由は、牛のお腹のなかにあります。

牛は反芻動物と呼ばれていて、胃を4つも持っています。

なかでも一番大きいのが第一胃で、ルーメンとも呼ばれ、ここが牛の消化のメインステージになっています。

この第一の胃のなかには、目に見えないほど小さな微生物たちが、ぎゅうぎゅう詰めで暮らしています。

牛が口にした硬い植物の繊維は、まずこの微生物たちに分解してもらわなければ消化できません。

牛は、胃のなかに「専属の解体チーム」を住まわせているわけですね。

このとき微生物たちが働いた副産物として、水素ガスと二酸化炭素が放り出されます。

それをわざわざ拾い集めて、せっせとメタンに作り替えてしまう生き物が、第一胃の中にはもう一種類いるのです。

「メタン生成古細菌」と呼ばれる、メタンを作るのが大好きな小さな生き物の仲間です。

この仲間は、じつは私たちのよく知る細菌とはちがうグループ(古細菌)に属しますが、本記事では読みやすさのために「メタン菌」と呼ぶことにします。

水素と二酸化炭素を組み合わせてメタンに変える、いわば小さな化学プラントのような働きをしています。

こうしてできたメタンを、牛は自分の体では使えません。

そこでげっぷとして外に出してしまうのです。

これが、牛のげっぷ=メタンの正体です。

胃袋の中の共犯者

ところがこの話には、長らく見過ごされてきた登場人物がもう一人いました。

それが繊毛虫と呼ばれる、小さな生き物です。

繊毛虫は、細菌よりずっと大きく、構造もずっと複雑です。

私たち人間と同じ「真核生物」(核をもつ生き物)という大きなグループに属する、本格的な小さな生き物と言えるでしょうか。

表面に短い毛がびっしり生えていて、それを使って動いたり食べたりしています。

その毛が「繊毛」、繊毛をまとった生き物だから繊毛虫、というわけです。

第一胃に住む微生物の重さで見ると、繊毛虫は最大で全体の4分の1ほどを占めることもあります。

決して脇役ではありません。

そして昔から、ある不思議な事実が知られていました。

繊毛虫が多い牛ほど、げっぷのメタンも多くなるのです。

実験で繊毛虫を取り除くと、メタン排出量が最大で3割以上も減ることもわかっています。

ところが、繊毛虫自身はメタンを作ってはいません。

それなのに、繊毛虫がいるとメタンが増える。

いったい、なにが起きているのでしょうか。

有力な仮説はありました。

「繊毛虫が、メタンを作る微生物に水素を渡して、メタン作りを応援しているのではないか」というものです。

水素はメタンの材料ですから、誰かが気前よく水素を供給してくれれば、メタン菌は喜んでメタンをどんどん作ってくれるはずだ、と(Newbold ら, 2015;Firkins ら, 2020)。

しかし、ここからが難問でした。

繊毛虫の細胞のいったいどこで、どんな仕組みで大量の水素が作られているのか、これがおよそ50年にわたって、誰一人として決定的に示せなかったのです。

場所も、装置も、謎のままでした。

細胞の奥で見つかった、メタン生成の加速装置

細胞の奥で見つかった、メタン生成加速工場
細胞の奥で見つかった、メタン生成加速工場 / Credit: Xie et al., Science, 392, eadv4244 (2026)

この長年の謎に、ようやく答えを出したのが、中国科学院水生生物研究所の魏苗(Wei Miao)教授たちの研究チームです。

研究チームはまず、ずっと滞っていた繊毛虫の遺伝情報の解読を、大きく進めました。

それまで世界で53個ほどしか読まれていなかったゲノム情報を、なんと450個のゲノムからなるカタログにまで広げたのです。

そのうちの87%は、今回新たに読み解かれたものでした。

この大規模な解析の結果、驚くべきことがわかりました。

これまで「32属274種以上いる」とされてきた反芻胃の繊毛虫は、今回の解析では「18属65種」と、思っていたよりもずっと少ない仲間として整理されたのです。

形だけで分類していた時代の図鑑が、遺伝情報によって大きく書き換えられました。

次に研究チームは、代表的なルーメン繊毛虫(ダシトリカ)を取り出し、電子顕微鏡でじっくり調べました。

すると細胞のなかに、ある楕円形の小さな構造が、いくつもぽつぽつと並んでいるのが見えました。

実は、この構造そのものは古くから観察されていたのですが、いったい何をしているものなのか、その正体は長らくはっきりしていなかったのです。

しかし研究チームが調べたところ、2つの大切な酵素が備わっていることがわかりました。

ひとつは水素を作るための酵素、もうひとつはまわりの酸素を取り除くための酵素です。

つまりこの構造は、ふたつの仕事を同時にこなしていました。

水素を作って、メタン菌にエサとして渡すこと。

そしてまわりの酸素を取り除いて、酸素が大の苦手なメタン菌が安心して暮らせる環境を整えること。

メタン菌にとって、これ以上ない「至れり尽くせりのサービス」だったわけです。

しかも水素ボディは、繊毛虫の表面に生えている繊毛の付け根に、寄り添うように集まっていました。

繊毛が多く生えている種類ほど、その根元に並ぶ楕円構造の数も増える──そんなきれいな比例関係まで成り立っていたのです。

研究チームはこの構造を、これまで知られていない細胞内の新たな部分(細胞小器官)として「水素ボディ」(hydrogenobody)と名付けました。

これまでの研究により、繊毛虫の細胞内には水素を作る似た部品(ハイドロジェノソーム)があることは知られていましたが、今回の水素ボディは、それとは明確に別物でした。

昔から知られていた水素生成装置(ハイドロジェノソーム)は仕切りの膜が二重で、ミトコンドリアから進化してきたと考えられているのに対し、水素ボディはたった一枚の膜で包まれていて、ミトコンドリアやハイドロジェノソームとは別ルートで進化してきた可能性があるのです。

しかもその膜は、厚さわずか5ナノメートル。

1ミリメートルの20万分の1という、想像を絶する薄さです。

研究チームは論文のなかで、こうした「膜が一枚だけ」という特徴は、水素ボディがミトコンドリア由来ではなく、従来のハイドロジェノソームとも異なる進化的な起源を持つ可能性を示している、と説明しています。

働きは似ているけれど、生まれも育ちもまるで違う、もう一種類の細胞内部品だったというわけです。

研究を率いた魏苗教授は、こう述べています。「この特徴は、水素ボディがミトコンドリア由来ではないことを示しており、異なる進化的起源を持つ可能性がある」。

働きは似ているけれど、生まれも育ちもまるで違う、もう一種類の細胞内部品だったわけです(詳しくは後述)。

配信元: ナゾロジー

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