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光子は「切ろう」とすると無限に増える――でも外からは1個に見えた

光子は「切ろう」とすると無限に増える――でも外からは1個に見えた

光子は「切ろう」とすると無限に増える――でも外からは1個に見えた
光子は「切ろう」とすると無限に増える――でも外からは1個に見えた / Credit:Canva

ギリシャ神話に、ヒュドラという怪物が登場します。首を一本切り落とすと、その切り口から二本の首が生えてくる、たいへん厄介な相手です。

ところが光のつぶ(光子)の世界では、それよりもっと奇妙なことが起こるようなのです。

ノルウェーのオスロ大学(UiO)の研究チームによれば、光のつぶの端を少しだけ切り取ろうとすると、首が二本どころか、理想的な切り方をすれば、なんと無限にたくさんのつぶが生まれ得ることが、理論的に示されました。

ところが、本当に不思議なのはここからでした。無限のつぶがざわめいているはずなのに、切れ目の左右をのぞいてみると、片側には「つぶが1個」、反対側には「空っぽの真空」。

まるで何も増えていない、ありふれた景色が広がっていたのです。

無限に湧いたはずのつぶは、いったいどこへ消えたのでしょうか?

そして、そもそも割れないはずの光から、なぜつぶが生まれるのでしょうか?

研究内容の詳細を示した論文は2026年5月18日に『Physical Review Letters』に受理されました。

目次

  • 割れないはずの光を、切るということ
  • 光子を切ろうとすると無限に湧く——―なのに、見ると1個
  • 光のつぶは「何もない空間」から湧いていた
  • なぜ「無限個」なのか——―狭く閉じ込めるほど、つぶは増える

割れないはずの光を、切るということ

割れないはずの光を、切るということ
割れないはずの光を、切るということ / Credit: Rukan, Gulla & Skaar (2026), arXiv:2510.21636 / CC BY 4.0

世の中のものは、どこまでも細かく分けていけそうに思えます。ケーキを半分に、その半分をまた半分に。包丁さえあれば、いくらでも続けられそうです。

けれど、ものをどんどん細かくしていくと、最後には「これ以上は分けられない」という、究極のつぶにたどりつきます。それが素粒子です。自然界をかたちづくる、いちばん基本の部品。それ以上は、どんな刃物を使っても割れません。

たとえば、原子の中心にある陽子。これは3つのクォークというつぶからできています。けれど、そのクォークを取り出してさらに半分に、というわけにはいきません。クォークは、もうそれ以上は分けられない。これが素粒子です。

そして、光のつぶ——光子も、この素粒子の仲間です。つまり光のつぶは、原理からして「半分に割る」ことができないのです。

ここで、ひとつ引っかかります。

「割れないなら、そもそも切りようがないのでは?」

もっともな疑問です。ふつう「切る」といえば、1個のものを刃物で2つに割ること。割れないものを切る、というのは、言葉からして矛盾しているように聞こえます。

ところが、ここで光ならではの不思議な性質が効いてきます。

私たちはつい、光のつぶを、空中にぽつんと浮かぶ小さなビー玉のように思い描いてしまいます。けれど、実際はそうではありません。

量子の世界では、光は「つぶ」であると同時に、「波」でもあります。波だということは、一点にぎゅっと固まってはいない、ということです。

水面に立った波が、ひとところにとどまらず、すうっと横に伸びていくのを思い浮かべてください。

光のつぶも、あんなふうに空間へうっすらと広がった、細長い帯として、光の速さで流れているのです。

帯ならば、その全部を真っ二つにしなくても、流れていく途中で「一部分だけ」を狙うことができそうです。

たとえば、帯が通り過ぎるところに、すばやくオン・オフを切り替えられる鏡——いわば光のシャッター——を置く。

すると、帯のうち鏡に当たった一部分だけが、はね返されます。

つぶを真っ二つに割るのではありません。

広がった帯の一部に鏡を当て、そこだけを断つ——そういうイメージです。

割れないはずのものでも、こうすれば「一部を切り取る」ことができるはずです。

では、帯の一部をさえぎったら、残りはどうなるのでしょうか。

光子を切ろうとすると無限に湧く——―なのに、見ると1個

光子を切ろうとすると無限に湧く——―なのに、見ると1個
光子を切ろうとすると無限に湧く——―なのに、見ると1個 / Credit:Canva

帯の一部を鏡でさえぎったら、残りはどうなるのか。

素直に考えれば、答えはこうなるはずです。

こちら側に1個。そして向こう側には、何もない空っぽの空間——真空が残る。

光のつぶは割れないのだから、これ以外の答えはなさそうに思えます。

ところが、研究チームが光と電磁場のふるまいを記述する量子の方程式を使って、きちんと計算してみると、この素直な予想は、まちがいだとわかりました。

光のつぶを切ろうとすると、減るどころか、新しいつぶが次々に生まれてきたのです。

しかもその数は、0個、1個、2個……と、どこまでも続いていく。

無限個までのあらゆる可能性が、いっぺんに含まれた状態でした(※より正確に言えば、「光が何個ある状態か」という見方をしたときに無限個ぶんまでふくらんでいた、ということです)。

「0個でもあり、1個でもあり、2個でもあり、それらが重ね合わさったり混ざり合ったりして含まれている」——これは、リンゴのように数がはっきり決まっている世界とは、まるで違います。

ふたを開けるまで何個あるか決まっていない。量子ならではの、ふしぎなあり方です。

割れないはずの光のつぶを、ほんの少し切ろうとしただけ。

なのに結果は、無限個のつぶがざわめく、おそろしく複雑な状態でした。

神話のヒュドラは「1本切れば2本」でしたが、光のつぶは「少し切れば無限個」。

神話の怪物さえ、はるかに上回る奇妙さだったのです。

実験の様子を模式的に示したもの
実験の様子を模式的に示したもの / 横軸が空間の位置x、縦軸がエネルギーの密度です。鏡はx=0の位置にあります。

——と、ここで話が終われば、「光を切ると、とんでもなく複雑になる」という、それはそれで面白い結論でした。

ところが、本当に不思議なのはここからです。

研究チームが、切れ目を境にして、その左右を詳しく調べてみると、まったく予想外のことが見えてきました。

切れ目のあたり——専門的には「遷移領域」と呼ばれる、ごく狭い区間——をはさんで、その片側だけを見ると、「光のつぶが、ふつうに1個あるだけ」。

反対側を見ると、「ただの空っぽの真空」。

そんな、拍子抜けするほどありふれた景色が、そこにはあったのです。

全体としては、無限個のつぶが重なり合った、超のつく複雑な状態のはずです。

それなのに、見る場所を切れ目の左右にしぼると、まるで無限個など最初からいなかったかのように、ごく当たり前の顔をしている。

この研究について取材に対しコメントを寄せた、英ヨーク大学のサミュエル・ブラウンスタイン氏は、この不思議さをこう言い表しています。

量子の世界では「恐ろしく複雑なものが、まったく単純なものに見せかけることができる」のだ、と。

正体は、無限のつぶがひしめく途方もない怪物なのに、こちらが見ている範囲では、すました顔で「ただのつぶ1個ですよ」「ここは何もない空っぽですよ」と、すっかり単純なふりをしてみせる——そんなイメージです。

ここまでで、なぞなぞは3つに増えました。

割れないはずの光から、そもそもなぜ、つぶが湧いて出るのか。

湧いたつぶは、いったいどこにいるのか。

そして——なぜそれが、よりによって無限という数になるのか。

以降では、この3つの謎を、ひとつずつ見ていきます。

配信元: ナゾロジー

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