これは、現在40代の女性が小学校時代に体験した、生涯忘れることのできない「友情」の記憶です。
当時の彼女は非常に内気な性格で、周囲とうまくコミュニケーションを取ることができず、学校には友達と呼べる存在が一人もいませんでした。
ただそこにいるだけで息が詰まるような、孤独な教室。学校という空間そのものが嫌いで仕方がなかった彼女は、休み時間になるといつも一人、教室を抜け出しては、校舎の片隅にある裏庭のような場所でひっそりと時間を潰していました。
■ 孤独な裏庭で差し伸べられた手
そんなある日のことです。いつものように裏庭の地味な景色を眺めていると、背後から不意に声をかけられました。
「いつも1人なの? ……わたしも1人なんだ」
驚いて振り返ると、そこには自分と同じ年頃の、一人の女の子が佇んでいました。
その子はまっすぐ彼女を見つめ、はにかむようにこう言ったのです。
「友達になろう」
それは、彼女の人生において、初めて他者から差し伸べられた温かい手でした。
その日を境に、彼女の学校生活は一変しました。休み時間のチャイムが鳴るたび、胸を弾ませて裏庭へと駆けていく。そんなウキウキした毎日が始まったのです。
女の子は学年が一つ下だと話していましたが、不思議と自分よりもしっかりしていて、どこか大人びた雰囲気を持っていました。何より一緒にいて、言葉にできないほどの心地よさがあったそうです。
「クラスでこんな嫌なことがあってね……」
彼女が漏らす不満や愚痴を、女の子はいつも優しく、時に楽しそうに笑って聞いてくれました。
世界中で、自分を理解してくれる友人がたった一人いる。それだけで、あれほど嫌いだった学校へ行くことが、初めて楽しみに変わっていきました。
■ 突然の別れと、薄れゆく記憶
しかし、幸福な時間は唐突に終わりを迎えます。ある日を境に、裏庭にその女の子の姿がぴったりと見えなくなってしまったのです。
(風邪でも引いて、体調を崩しちゃったのかな?)
最初はそんな風に思い、明日になればまたいつもの笑顔に会えるだろうと信じていました。しかし、何日経っても、彼女が裏庭に現れることはありませんでした。
(もしかして、急に転校しちゃったのかな……)
まともに見送りもできなかった寂しさと心配は募りましたが、子供の時間は残酷なほど早く流れていきます。
数ヶ月が経ち、数年が経ち、中学生になる頃には彼女にも新しい友人ができました。そして、かつて裏庭で優しく微笑んでくれていたあの子の記憶は、日々の生活の中に少しずつ埋もれ、いつしか完全に忘れ去られていったのです。
【関連】【國澤一誠のゾッとする実話怪談】第五夜繁華街の闇に消えた「一番の執着」――《スカウト》
