アイドル活動に本気で取り組むことが、卒業後の自分を救う
——もし今の桜さんが、アイドル現役時代のご自身に言葉をかけるとしたら、どのようなアドバイスを贈りますか。「あのときこうしていればよかった……」と思うのは、どういったことでしょうか。
「もっと幅広い知識を得て、いろいろな人と交流を持っておいたほうがいいよ」と伝えたいです。当時の私は、上の人の言うことを真面目に聞き、敷かれたレールの上を一生懸命に走る人生でした。メンバー同士ですら連絡先の交換が禁止されているほど、大切に守られていた環境ではありましたが、それゆえに外部との繋がりをほとんど持つことができず、孤独に過ごした時代でもありました。だからこそ、もっと外の世界を知り、多様な価値観に触れておくべきであったと強く感じています。
とはいえ、現役アイドルがいきなり業界外の社会人の方々と交流を持つことは簡単ではありません。ですから、まずは今の環境での人間関係を大切にすることが、未来の自分を救う第一歩だと思います。運営スタッフとどう関わるか、メンバーの中で自分はどういうポジションを取り、どう接していくか……そういったことを本気で意識するだけでも、立派な社会経験になります。
そして何より重要なのは「アイドル活動を全力でやり切る」ということです。ただ漠然と日々の活動をこなすのではなく「何のためにこの活動をしているのか」という目的意識を持ってほしいと思います。
例えばSNSを更新するにしても、漠然とかわいい自撮りを載せるだけでなく「どんなターゲットに見てほしいのか」「グループを売るためにどう活用するのか」といったことを、自分の頭で考えながら動くことが大切です。誰かに言われたからやるのではなく、主体性を持って全力で取り組むことは、結果的に“社会で活きるスキル”としても繋がっていきます。
——卒業時に笑顔で次のステージへ進める子と、そうでない子の決定的な差はどこにあると感じられますか。
やはり、アイドル活動に後悔がないくらい全力で打ち込めたかどうかが一番の差になるのではないでしょうか。真面目に一生懸命活動してきた方は、ファンの方々はもちろん、事務所のスタッフやメンバーからも愛されます。周囲に惜しまれながら、笑顔で卒業していくことができるのです。
私自身も現在の転職支援の仕事について、アイドル時代のファンの方から「リーダーがやる活動なら安心だね」と言っていただけたり、今応援している現役アイドルの方にツギステを宣伝していただけたり(笑)、そんなふうに卒業後もあたたかく応援していただけるのは、アイドル時代を全力で駆け抜けたからこそだと思っています。
一方で、未練を残してしまったり、環境のせいにしてしまったりする方は、結果的に自分の努力が足りなかった部分を見つめ直す時間が、後から時間差でやってきます。全力でやり切ったという自負が、そのまま社会に出たときの自信へと変わっていくのだろうと感じています。
——ここはタブーの領域かもしれませんが……あえて聞かせてください。アイドル卒業後のセカンドキャリアとして、キャバクラなどのいわゆる“夜職”を選択する方も多いと伺いました。その現状についてはどうお考えですか。
近年はとくに、気軽に働き始められるコンカフェなどを選ぶ方が多いようです。それ自体は悪いことではありませんし、本人が望んで選択しているのであれば尊重されるべきです。「まずは目の前の生活をなんとかしなければ」という焦燥感は、私も痛いほどにわかります。しかし実態としては、単なるポジションチェンジをして「その日暮らし」を続けていることに変わりありませんし、結果としてキャリアの悩みを先延ばしにしている状態に陥ってしまいます。
そうすると、30歳の節目などで自分の年齢をリアルに実感したり、結婚や出産を意識したりといったタイミングで「この仕事をずっと続けられるのか」と、再びキャリアの壁や計り知れない不安と向き合うことになります。加えてその頃には、就職の難易度もますます上がってしまうのです。
それならば、若くてポテンシャルがあるうちに企業に入って、一度は社会人を経験してみることをおすすめしたいです。企業は、想像以上に自分を成長させてくれる環境だと思います。そこでスキルを身につけてから、次にやりたいことを見つけたり独立を考えたりしたほうが、結果的に人生の選択肢が大きく広がっていくはずです。
——生々しい現実ですね。実際に就職を成功させた方が、その後どうしているのかも気になります。企業で働いている元アイドルの方々からは、どのような声が届いていますか。
「社会に出る自信がない」「自分は社会不適合者だ」と思い込んでいた方たちが、就職して1ヶ月もするとガラッと表情が変わるんです。「毎日朝起きられないと思っていたけれど、全然余裕でした」「あのとき背中を押してくれて、人生が変わりました」といった話を、キラキラした目で語ってくださいます。それが嬉しくて嬉しくて……。
また、一般社会に出たことで出会う人が変わり、交流の幅が広がったことで「初めて結婚や将来のライフプランを具体的に考えられるようになりました」と報告してくれる方もいます。安定した収入を得て、しっかり休みを取り、旅行の計画を立てられるといった「普通の幸せ」を心から噛み締めて喜んでいる姿を見ると、私自身も本当に支援をやってきてよかったと感じます。
——最後に、今まさにステージで夢を追いかけている現役アイドルの皆さんへ、メッセージをお願いします。
ステージに立ち、夢を追いかける時間は本当に尊いものです。一度降りてしまえば、もう一度立ちたいと願っても簡単に戻れる場所ではありません。だからこそ、今立っているステージや、応援してくださるファンの方々、支えてくれる周囲の皆さんを大切にして、目の前の夢に向かって全力で突き進んでほしいと思います。そのひたむきな努力と覚悟は、ステージを降りた後の長い人生において、必ずあなた自身を助けてくれる武器になります。決して自分の可能性を諦めず、自信を持って輝き続けてください。
桜 のどか(さくら のどか)●「仮面女子」の初代リーダーとして約9年間アイドル界を牽引。年間1,000本以上のライブやさいたまスーパーアリーナ単独公演、オリコン1位などを達成後、俳優へ転身。自身の引退後の葛藤や元メンバーからの相談を機に、セカンドキャリアを支援する株式会社ツギステの立ち上げに参画。現在は同社取締役として、元アイドルなどエンタメ業界に身を置いた人々の「次の輝き方」をサポートしている。
