「断食」「ファスティング」が健康法として世間に広まってだいぶ経つ。だが、正しい知識とメソッドをもって行わなければ、いい効果を得るどころか、むしろ健康を損ねかねない。青木厚医師が多くの医学論文に基づき導き出したのは「16時間の空腹」。人間に本来備わっている細胞の自食作用「オートファジー」がピークに達するという。
青木厚氏の書籍『「空腹」は最高の健康習慣 ホルミシスが人生を変える』より一部を抜粋・再構成し、『オートファジー』とは何か解説する。
「腸内環境の改善」には何が必要か
「ファスティング」という現代的なキーワードでの広がりも含めて、「断食」に関する情報は、たくさん出回っている状況です。
それぞれに魅力的なユニークさがあるので、「いったいどの方法が正しいのか」「果たしてどのメソッドを信じていいのか」と戸惑う方も多くおられるでしょう。
「断食」に関係する数多くの医学論文を読み込んできた一人の医師として私がたどりついた結論は、16時間以上、空腹の時間を作ると、最大の効果が得られるということでした。
私が16時間と言うのには、科学的な理由があります。
まず、最後に食事を摂ってから10時間ぐらい経つと、肝臓に蓄えられた糖がなくなって脂肪が分解され始めます。たまっていた脂肪が、エネルギーとして使われ始めるのです。
これは食べたいときに食べられるとは限らない生活をしていた古代人の頃から人間に備わっていた、自然な身体の反応が起きたということになります。
そして、16時間が経過するあたりから、身体の中では「オートファジー」がさかんに活性化し始めるのです。
細胞が若返る! 「オートファジー」とは何か
「オートファジー」の語源は、「オート(auto)」=自分、「ファジー(phagy)」=食べる、ということで、「自分を食べる」つまり「自食作用」ということになります。
この作用の存在を最初に発見したのは、ベルギーの細胞生物学者クリスチャン・ド・デューブ博士で、1963年のことでした。
その後、2016年には東京科学大学の大隅良典栄誉教授がオートファジーの分子機構の解明でノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、一挙に有名になり、現在では、ダイエットや美容の界隈でもおなじみの言葉になりました。
この「オートファジー」のしくみと働きを、簡単に説明しておきましょう。
オートファジーとは、細胞が自らの中の成分を分解・再利用する「自食作用」のことです。
この働きが、生命維持や老化防止、病気予防に重要な役割を果たしています。
私たちの身体は約37兆個の細胞からできています。
そしてこの細胞は、主にタンパク質からできています。細胞一つ一つに、人間の遺伝情報の一揃い(これをゲノムといいます)が入っていますが、この遺伝情報というのは、つまりはタンパク質の設計図のことです。
細胞の中には、ミトコンドリア、リボソーム、ゴルジ体など、オルガネラ、あるいは細胞小器官といわれる器官があります。
ミトコンドリアはエネルギーを産生し、リボソームでタンパク質が合成され、ゴルジ体では合成されたタンパク質にさまざまな糖が付加されます。
細胞とオルガネラは、脂(あぶら)(リン脂質の二重層)とタンパク質でできた生体膜で包まれています。
生体膜は、外側は親水部(水に溶けやすい部分)、内側は疎水部(水に溶けにくい部分)となっています。
この生体膜の分裂や融合により、オルガネラ同士、あるいは細胞膜とオルガネラの間で、物質の輸送や、細胞外への放出を行なうしくみのことを、メンブレントラフィックといいます。
このメンブレントラフィックの一種に「オートファジー経路」があり、タンパク質やオルガネラが細胞内のリソソームに運ばれる経路を指します。
東京大学の水島昇教授は、オートファジーとは「細胞内の自己成分をリソソームで分解する細胞の機能」であると定義しています。

