「先生」ではなく、一緒に学ぶ仲間として
自ら収穫した野菜を手に笑顔を見せる子どもたち。荒尾選手は「先生」ではなく「一緒に学ぶ仲間」としてフラットに接する 写真提供:株式会社千葉ジェッツふなばし「G.CREW」の活動において、荒尾選手はあるこだわりを持っている。それは、一般公募で参加者を広く募るのではなく、児童養護施設や里親家庭の子どもたちなどを中心に招待している点だ。
「広く募集してしまうと、どうしても『バスケ選手の荒尾選手』という憧れの目線が先行してしまいます。そうではなく、普段なかなかこうした自然体験ができない子どもたちにこそ、経験させてあげたいんです」
子どもたちに接する時、荒尾選手は決して「先生」という立場をとらない。自ら名札を書き、受付を手伝い、一人の主催者としてフラットに接する。
「先生というより、一緒に学んでいる友達ぐらいの感覚ですね。『こういう考えもあるね』『僕はこう思ったよ』と普通の会話をしています。嫌いな食べ物を一口でも食べてくれたり、ネギの収穫で『こんなに力がいるんだ!』と驚いてくれたり。そういった小さな『気づき』や『知らなかったことを知る瞬間』に立ち会えるのが何より嬉しいです」
調理の場でも子どもたちと同じ目線に立ち、一緒に鍋をのぞき込む。「教える」のではなく「共に楽しむ」姿勢が伝わってくる一枚写真提供:株式会社千葉ジェッツふなばし
リピーターとして参加する親子のアンケートからも、確かな成長が見て取れる。
「昨年に引き続き参加させていただき、子どもたちもとても楽しみにしていました。鎌の使い方や稲刈り~運ぶ作業など、1年ぶりでもしっかり流れを覚えていて、前回よりスムーズに進める姿に成長を感じました」(保護者)
「野菜の収穫時、虫がいっぱいいて大変だったけど、みそ汁にしたらめっちゃおいしかった」(中学1年生)
「荒尾選手と交流して、いいところをいっぱい知れたのでよかったです」(中学1年生)
無邪気で温かい感想の数々は、彼らがただの体験にとどまらず、自らの手で収穫し、味わう喜びを確実に噛み締めている証拠だ。
アリーナから地域へ。千葉ジェッツが描く新しい循環
千葉ジェッツでの長年のプレーに対する感謝を込め、地域やファンとの「新しい循環」について展望を語る photo by Yoshio Yoshida千葉ジェッツに在籍して合計約8年。チームが地域密着の小さなクラブから、1万人を超える観客を動員する日本トップクラスのクラブへと成長する過程を、荒尾選手は肌で感じてきた。
「若い頃に千葉ジェッツに来て、地域のお祭りに行ったりビラ配りをしたりする中で、応援してくださるファンやスポンサー、地域の方々への感謝の気持ちが強くなりました。この活動を通して、千葉ジェッツと生産者、地域の方々、そして子どもたちがうまく循環し、恩返しになればいいなと思っています」
ひとり親家庭を対象としたキャンプイベントでの一コマ。子どもたちと同じ目線で自然体の交流を楽しむ 写真提供:株式会社千葉ジェッツふなばしその「循環」は、確かな形になり始めている。荒尾選手の活動が縁となり、2026年1月下旬からは、地域の生産者から仕入れた野菜を使った地産地消メニューがアリーナで提供されるようになった。活動の輪は、コートの外へ着実に広がっている。 さらに、ひとり親家庭を対象としたキャンプイベントに参加し、一緒にバーベキューやレクリエーションを楽しむなど、多様な社会貢献活動も展開している。
「『社会貢献をやったほうがいい』と誰かに強制するものではないと思っています。ただ、こうして記事にしていただいて、こういう活動があることを知ってもらい、少しでも興味を持ってくれたら嬉しい。本人が『やりたい』と思った時にやるのが一番ですから」
自身の背中を見せることで、自然と後に続く選手が現れることを願っている。実際、千葉ジェッツ内では荒尾選手の姿に影響を受け、自発的に社会貢献活動を始める選手たちが生まれているという。
ボールを力強く握るその手で、土に触れ、命の尊さを伝えてきた。彼が蒔いた種は、確実に次の世代へと受け継がれていく photo by Yoshio Yoshida歓声が鳴り止み、いつか必ず訪れる引退の日。その後、アスリートには一体何が残るのだろうか。 その答えを、荒尾選手はすでに知っているのかもしれない。
土の匂いを嗅ぎ、命の尊さを語り合った時間。苦手な野菜を笑顔で頬張るようになった子どもたちの姿。そして、アリーナで提供される地元の新鮮な野菜たち。 彼がコートの外で蒔き続けている小さな種は、地域という豊かな土壌に根を張り、スポーツの枠を超えた「新しい絆」として、未来へ力強く育っていくはずだ。
text & photo by Yoshio Yoshida(Parasapo Lab)
写真提供:株式会社千葉ジェッツふなばし
