5月26日、ヤマシンフィルタ株式会社と信州大学が手を取り合い、ナノファイバーを軸とした次世代機能素材を開発する「SHIN‐PROJECT」を開始した。
世界的に環境保全が進む中で、欧州を中心にPFAS(有機フッ素化合物)の規制が強まり、防水や撥水機能を持つ素材の見直しが求められている。くわえて、米国・イスラエルによるイラン攻撃の影響で資源供給リスクも高まっており、新たな機能素材へのニーズの高まりを背景とした産学連携プロジェクトである。
ヤマシンフィルタ株式会社とナノファイバー
ヤマシンフィルタ株式会社は、72年にわたり、産業用フィルタや機械用油圧フィルタの開発・生産・販売を行う企業だ。フィルタービジネスを通じて社会に貢献することを企業理念として掲げ、それを全うしてきた実績がある。
フィルターメーカーは日米欧だけでなく、発展途上国にも多くある。だが、一般的にフィルターメーカーは最も重要な部品である濾材を購入して加工している。一方、ヤマシンフィルタ株式会社では、この濾材を自社で独自開発しているのだ。
もともと、濾材は布を使っていたが、次第に紙を使うようになり、今はガラス繊維を使うのが一般的になった。その次世代の素材として、ヤマシンフィルタ株式会社はナノファイバーに着目し、ナノファイバーの濾材を開発した。
200ナノから800ナノの細さのナノファイバーを開発したとき、まるで綿のような形状をしていた。綿の形状をしているのならば、布団の内側や壁の中の防音材に使えるのではないかと、試したところ、保温性、吸音性ともに優れた性能を持つことがわかった。
これにより、これまではゴミを取るのがフィルターだと考えていたが、熱や電磁波、音など“見えない領域”をフィルタリングする素材技術の可能性に気付いたのだ。
こうして見いだしたナノファイバーの可能性に着目し、その可能性を拡大させるためにリソースを投入したかたちだ。
ヤマシンフィルタ株式会社のナノファイバーはメルトブローン製法で作られる。プラスチックを熱して溶かし、ドロドロにしたものを細いノズルから出して、熱風をかけながら飛散させる。すると細かなナノファイバーができるのだ。
どんなプラスチックを使うかでナノファイバーの性能は変わる。プラスチックといえば、今は石油由来のポリプロピレンやポリエチレンが主流だ。だがバイオプラスチックでもナノファイバーを作ることができる。とても環境に優しいナノファイバーが完成するわけだ。ほかにも、表面処理を施すことで違った特性を与えることもできる。
どのような処理を施せば、どのようなナノファイバーが生まれるのか。その検証に今、挑戦しているのだという。
もともとは建設機械や工作機械を扱ってきたヤマシンフィルタ株式会社。今回の取り組みのために、まったく異なる分野に強い営業部隊を作った。その分野はアパレルだ。
例えば、ナノファイバーを中綿として使用したコートやスーツを開発したところ、従来品の10分の1の厚さで同等の性能を実現した。これを応用すれば、宇宙服のようにかさばる防火服を、トレーナーのように着やすいものにできる可能性がある。
現在、パリコレクションに出展するメーカー2社、ゴルフウェアを制作するメーカーに採用され、勢いが出てきた。今後、さらに契約先を拡大していく。
動くことで発電するナノファイバーの開発も進んでいる。歩くだけ、走るだけで発電できる時代が来るのかもしれない。そのエネルギーを使って体を温める仕組みを作ることもできる。
すでに、少し叩くだけで微量ながら発電できるナノファイバーは開発に成功している。
なぜヤマシンフィルタ株式会社は信州大学を連携先に選んだのか
一企業がナノファイバーという広がりのある分野に挑戦するには、どうしても手が足りない。そこで連携先を探した末にたどり着いたのが信州大学だった。
信州大学の金翼水教授は、ナノファイバー研究一筋40年のベテラン。ヤマシンフィルタ株式会社が一企業で開発を進めるには限界がある。金教授の研究室と連携することで、さらに高度な開発を進めるとともに、開発のスピードアップを目指す。
これにより、3年で社会実装できるレベルまで開発を進める予定だという。目標時価総額は3000億円と、大きな目標を掲げる。
