仕入れ先が閉店、隣町の店から引き継ぐ――”看板メニュー”を支える地域の商流
喜良久庵の主力商品の一つであるカツ丼について、矢口氏は創業当時から地元精肉店とのつながりの中で形づくられてきた一品だと話す。特筆すべきは、その仕入れ先の精肉店が閉店した後も、引き継いだ隣町の店舗から仕入れを続け、味と品質を維持してきたという点だ。看板商品の裏には、店と店のあいだで受け渡される地域商流の連鎖がある。

また、カレー南蛮についても、創業者が東京・本所で修業した味を受け継ぐ看板メニューだと説明する。これらは事業者側の説明によるものだが、定番商品の背景に仕入れ先や修業先との関係が折り重なっているのは、個人店ならではの構造である。
外部からの見え方としては、地域情報サイト「townode」が同店を「地元で愛される蕎麦屋」「昼時は多くのお客さんで賑わう人気店」と紹介している。第三者による短い紹介文ではあるが、日常利用に根ざした店として地域に認識されていることはうかがえる。
店の個性は、派手な新規性だけで生まれるわけではない。長く続く店では、料理そのものに加え、どこで学び、誰から仕入れ、どう受け継いできたかが、商品の輪郭そのものをつくる。だが、こうした蓄積は後継者や取引先があって初めて維持できるもので、地域の商流が細れば失われる可能性もある。看板商品を守ること自体が、地域経済の変化に左右される時代に入っている。
出前と高校生コラボ――災害復興地域で問われる「食堂以上」の役割
矢口氏は、同店の強みについて、味・量・価格のバランスに加え、「お客様一人ひとりに寄り添う柔軟さ」だと話す。メニューにない要望にも可能な範囲で応じ、出前サービスは高齢の利用客との接点にもなっているという。チェーン店では担いにくい、顔の見える関係が店の役割の一部になっているという認識だ。実際、結城信用金庫の地域飲食店紹介ページでも、同店は出前可能な店として案内されている。
一方で、老舗が地域で生き残るには、既存客に支えられるだけでは足りない。同店は季節の天ぷらや「よくばり3種丼」などの新メニュー開発に加え、
地元高校生から店のキャラクターを募集する企画にも取り組んでいると矢口氏は話す。

ここで見落とせないのが地域固有の文脈だ。常総市は2015年の関東・東北豪雨で大規模な浸水被害を受けた地域であり、商店街のにぎわいや人口動態は災害後の社会環境変化の影響を受けてきた。そうしたなかで、店を地域との接点として保ちたいというのが矢口氏の考えだ。
ただし、新しい取り組みが直ちに来店増や事業継続につながるとは限らない。地域人口の動向、物価上昇、働き手不足といった構造的要因は、個店の努力だけでは吸収しきれない部分が大きい。老舗店の継承は、過去の味を守ることに加え、次の世代とどう接点をつくるかという課題でもある。喜良久庵の試みがどこまで地域に根づくかは、これからの数年で輪郭が見えてくることになりそうだ。
【取材協力】
有限会社喜良久庵/そば処 喜良久庵
代表取締役 矢口 智恵 氏
https://gjpx100.gorp.jp/

