ポストに入っていた一通の手紙
火曜の朝、ポストを覗くと、宛名のない白い封筒が入っていました。便箋にはきっちりとした文字で「マンションで楽器なんて常識がない。すぐにやめてください」と書かれていたのです。
誰が書いたのか。同じフロアの方か、上下階の住人か。10年続けてきた練習を、これからどうすればいいのか。封筒を手にしたまま、玄関でしばらく立ち尽くしていました。
弱音器はずっとつけていたし、練習は日中の1時間だけ。それでも誰かにとっては許せない音だったのかもしれません。自分の趣味が誰かを傷つけていたという事実が、頭から離れませんでした。
思い切って書いた招待状
週末まで、ヴァイオリンには触れませんでした。ケースを開けるたびに、手紙の文面が浮かんでくるのです。誰かを不快にさせ続けることは、私には耐えられないことでした。
週末を過ぎても気持ちは収まらず、それでも思い切って手紙を書きました。心当たりのある何軒かにだけ、白い便箋を投函したのです。
「先日のお手紙、ありがとうございました。お騒がせしていたこと、心からお詫びします。もしご都合よろしければ、一度だけお聴きいただけませんか」
返事は期待していませんでした。それでも、ただ怯えて練習をやめるよりは、自分から一歩踏み出したかったのです。
