落ちる雫と、こちらを向いた視線
その女性は、たたまずに濡れたままの折りたたみ傘を肘にかけ、つり革をつかんでいました。イヤホンをつけて、うつむいたまま、周りのことはまるで気にしていない様子です。
傘の先からは、一定の間隔で雫が落ち続けています。私はどうにか伝えられないかと、傘のほうへ何度も視線を向けてみました。
けれど女性は、こちらをちらりと見ると、「なんですか」と言って再びうつむいてしまいました。私は睨まれたように感じて、そのまま口をつぐんでしまいました。
前の席で上がった泣き声
雫が落ちていた先には、座席に座る小さな男の子がいました。お母さんに寄り添って座っていた男の子の頭に、傘からの雫がぽつりと落ちます。
「つめたい」
その声と同時に、ぐずるような泣き声が車内に広がりました。お母さんはあわてた様子で、ハンカチを取り出して男の子の髪をそっと拭いています。その光景に気づいた周りの大人たちの視線が、傘を持つ女性へと集まっていきました。
