画面に並んでいた検索ワード
履歴には、夫が私の不在中にひとりで検索した言葉がずらりと並んでいました。『妻が怒っているときの対処』『夫婦のやり直し方』『家事分担の平均』『営業職の残業時間』『妻が出て行ったときの連絡』。私は画面を見つめたまま、しばらくその文字列を追っていました。家事分担の平均を、夫はこの3日で初めて調べたのです。結婚して5年、私が何百回も口にしてきたことを。そして履歴の一番上に、まったく文脈の違う言葉が一行だけ残されていました。『30代の自分史の書き方』。
そして...
画面を閉じようと指を動かしたとき、デスクトップが目に入りました。新規の文書ファイルがひとつ、置かれています。タイトルは『俺の30年』。中身を開く勇気は、そのときの私にはありませんでした。私は必要な物だけを持って、また家を出ました。夫がいま何を書こうとしているのか、何を振り返ろうとしているのか、私には分かりません。ただ、これまで『今日も疲れた』としか言わなかった人が、何かを始めようとしていることだけは、画面の向こうから伝わってきました。それでも、まだ戻る決心はつきません。あのファイルを開いて読むのは、もう少し先のことになりそうです。
(30代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
