自分の世界に閉じこもっていた帰り道
仕事でうまくいかないことが重なり、その日はとにかく、誰とも関わりたくない気分でした。イヤホンの音量を上げて、うつむいたまま、ぼんやりと空を見つめていました。
肘にかけた折りたたみ傘が濡れていることも、そこから雫が落ちていることも、まるで頭にありませんでした。正面に立っていた女性と、ときどき目が合いましたが、疲れていたこともあって、「なんですか」とだけ答えて、単に見られることへの不快感を伝えようとしてしまいました。
そのときの私は、その視線の意味を考えようともしていなかったのです。
ふと顔を上げて見えたもの
車内の空気が変わったように感じて、私はようやく顔を上げました。すると目の前の座席で、小さな男の子が泣いていたのです。お母さんがハンカチで、男の子の濡れた髪をそっと拭いています。
視線をたどって、私はやっと気づきました。私の傘から落ちた雫が、ずっとあの子の頭を濡らしていたのだと。周りの大人たちの目が、いっせいに私へ向けられていました。
