「長友佑都は、日本代表というチームに、レバレッジをかけられる唯一無二の選手である」と語るのはサッカーライターのミムラユウスケ氏だ。ときに森保監督と会見で意見をぶつけ合うことでも知られるミムラ氏だが、長友選手の招集には全面的に賛成している。むしろ誰よりも長友の必要性を説いてきたのが彼だ。
投資の世界で、少ない元手で大きなリターンを狙うときに「レバレッジをかける」というが、長友はまさに日本代表の力を最大限に引き出すために欠かせない存在だという。長友選手が絶対に必要な理由を解説してもらった。
「熱量みたいなものを失ってはサッカーでは勝てない」
いよいよ6月11日(日本時間6月12日)から始まるサッカーW杯。そもそも、日本代表はW杯優勝を目標に掲げているとはいえ、「横綱相撲」をできるほどの強さは手にしていない。
確かに、前回W杯からの日本代表の成長は目覚ましいものがある。特にこの1年はそうで、昨年10月にブラジル代表を、今年3月にイングランド代表を、初めて破った。1993年にプロリーグが誕生してから33年でそのレベルにまで達したのは胸を張れることなのは言うまでもない。
しかし、現実から目をそらしてはいけない。
日本が倒したブラジルもイングランドもベストメンバーではなく、1.5軍とも言えるような陣容で、日本との試合をテストの場として活用していた。日本戦で先発したブラジルのGKと2人のセンターバックはいずれも、W杯メンバーに選ばれなかった。イングランド代表は、エースで主将のハリー・ケインと、レアル・マドリード所属のジュード・ベリンガムが出場せず、トリッキーなフォーメーションで自滅した面もあった。
つまり、最大限の力を発揮して、優勝候補国にどうにか勝てる。それが今の日本の置かれた状況である。
だからこそ、代表選手がポテンシャルを最大限に発揮しないといけない。そのとき、大きな役割を担うのが長友なのだ。
人の記憶はいい加減なもので、長友佑都が代表に帰ってきた理由を多くの人が忘れているのかもしれない。だから、W杯メンバーに彼が入ったことに一部から批判が出るのだろう。
長友が再び必要とされるようになった最大の理由は、2年前のアジアカップの課題を克服するためだ。ダントツの優勝候補として臨みながらもベスト8に終わる大失態を犯したのがあの大会だった。あのときは、本来のポテンシャルを発揮できなかったと言い換えられる。
では、大失態を犯した日本のメンタル面の課題はどこにあったのか。
「熱量みたいなものを失ってはサッカーでは勝てない」
アジアカップ準々決勝でイランに力負けした直後、キャプテンの遠藤航はそう言い残した。
同じタイミングで冨安健洋もこう話していた。
「劣勢の状況を変えようとする選手が何人いるのか。正直、熱量を感じられなかった」
『熱量』自体は目に見えないし、体温計で測れるものでもない。
ただ、あの大会では対戦相手の『熱量』が形となって現れた場面があった。
自分の置かれた状況よりもチームの勝利を優先させる
準々決勝でのことだ。出場停止でベンチ入りすら叶わなかったイランのエースFWメフディ・タレミはチームに『熱量』を注入しようとしていた選手の筆頭だった。
キックオフのおよそ2時間前、駐車場からロッカールームへと続く通路に彼は立ち、チームメイトを待ち構えていた。アジアカップのレギュレーションにより、ベンチ入りしない選手はチームバスに乗ることを許されていなかった(26人の登録メンバーのうち23人がベンチ入りできるのがあの大会のルールだった)。
普通であればタレミのようなメンバー外の選手は試合に向けて準備をする選手たちをホテルで見送ったあと、スタッフとともに別の車でスタジアムへ向かうことになっていた。
しかし、イランのエースの行動は違った。スタジアムに一足先に乗り込み、ベンチ入りした選手たちを乗せたバスが到着する出口に立っていた。そして、バスから降りてくる仲間の一人ひとりと、固い握手やハイタッチを交わし、闘魂を注入していった。そういう行動によってイランの選手たちには情熱が注入された。そして、そんな相手に、日本は力負けした。
また、日本に勝ったあと、涙を流して喜びをあらわにしたイランの選手もいた。そんなところにも『熱量』の差は表れていた。
だからしばらく日本代表からは遠ざかっていた長友は、アジアカップ以降、代表に呼び戻された。『熱量』不足が浮き彫りになった日本代表を変えるために。
では、その後の彼の行動はどんなものだったか。
一例となるのが、アジアカップの約7カ月後に行なわれた9月11日のW杯最終予選バーレーンとのアウェーゲーム。そのキックオフ直前のことだった。
スタメン11人が1列に並ぶその後方に、長友が姿を見せた。ちなみに、この試合で長友はベンチ入りメンバーからも外され、スタンドから観戦する立場だった。
しかし、そんなことは彼には関係ない。チームメイトのために何かできることがないか。その一心から長友はあそこに立っていた。そこで一通り仲間を鼓舞すると、試合前の静寂の時間は黙って気配を消した。だが、キャプテン遠藤の「行くぞ!」という号砲が鳴り響いた瞬間、長友は全力で叫んだ。
「行くよ、行くよ! うぁぁーーー、行くぞ!!」
同じようにベンチ入りメンバーから外れた中堅や若手の選手たちが険しい表情でスタンドから観戦していたのとは対照的だった。ただ、若手選手たちが悪いのではない。
自分の置かれた状況よりもチームの勝利を優先させる長友の行動が異色なのだ。

