長友が試合に出るチャンスはかなり低い
だからこそ、筆者はこの試合直後に鈴木彩艶にこうたずねた。
「長友選手はいつも、チームメイトに気を遣ってくれるのでしょうか?」(ミムラ)
すると鈴木はニコリと笑いながら、「気を遣っているというか……」と言葉を選んだ上でこう続けた。
「心の底から、チームの勝利を本当に目指している。そういうものが本当に見えるんですよ!」
この言葉に象徴されるものが何かわかるだろうか。
それはチームメイトからの「リスペクト」だ。
確かに、監督のメンバー選考に他の選手が疑問を持つケースは過去にあった。「あの選手なら片手でも抑えられる」と陰口をたたかれたり、「アイツは監督のお気に入り枠だから」と言われている選手もいた。
おそらく、今回の長友のメンバー入りについて批判の意見を持つ人の大半は、長友が他の選手から評価されていないと勘違いしているのだろう。
現実は真逆だ。長友に対して、懐疑的な声はほとんど聞かない。むしろ、チームメイトからリスペクトされている。
例えば、堂安律はこんな言葉を残している。
「彼にしか出せないものはありますし。間違いなく、彼がこの日本代表にいる意味は、非常に大きい」
堂安は同様の発言を色々な場面で繰り返してきた。
だから、長友は必要なのだ。
ここまでの話を読めば、多くの人は納得するはずだが、それでもまだ反対の声は挙がるかもしれない。例えば、以下のような意見だ。
選手たちの顔ぶれを俯瞰してみると、長友が試合に出るチャンスはかなり低い。だから、メンバーに入れるべきではない。
確かに、そうした意見には一定の説得力がありそうだ。ただ、ここで一つの問いを立てたい。
試合に出場する可能性がない人間がチームを鼓舞するのと、可能性は低くとも26人のメンバーの一人がハッスルし、仲間を鼓舞するのとでは、チームに与える影響はどのように違うだろうか。
前者のケースでは「あれが長友さんの仕事だから……」と、他の選手から冷めた目で見られてしまうリスクがある。
ところが、後者のケースでは、他の選手は「同じ立場の長友さんがあそこまでやっているのに、自分が中途半端な気持ちで練習をしているなど許せない」と考えるはずだ。
長友は、後者の立場にいる。
また、長谷部誠コーチが「コーチの目線を持つ選手側の人間」だとすれば、長友佑都は「選手の目線を理解できるコーチのような存在」だ。現役選手として同じピッチに立ちながら、まるでコーチのようにチーム全体を俯瞰し、仲間のハートに火をつける。だから、意味がある。
日本代表の「最大化装置」
筆者は、森保監督の采配に異議を唱えることが少なくない。ただ、毎月最低でも2回は記事や動画のやり取りをする編集者から「ミムラさんは日本のメディアでもっとも長友選手のメンバー入りが必要だと言い続けてきた人ですね」と言われるほど、長友のメンバー入りの必要性は一貫して主張してきた。
失意のアジアカップやその後の日本代表の戦いを現場で取材し続けてきたからこそ、この件については森保監督の決断は正しいと感じる。
それに、長友がチームのために行動するのは練習や試合の時だけではない。ホテルでの食事の時間に、説教くさくならないように気を遣いながら、過去に4度もW杯に出場した経験を長友は話してくれるのだろう。
苦しい時の心構えはもちろん、チームが順調に結果を残しているときに気をつけるべきことまで、様々だという。そういうことができるところにも、彼の価値はある。
日本代表は6月2日の午後にメキシコのモンテレイに入り、事前キャンプを行なった。W杯の第2戦のチュニジア戦が行なわれるこの都市は高温で知られるため、ここで5日間にわたって練習をすることで、暑さに身体を慣れさせるためだった。
しかし、当初予定していたグラウンドの芝生の状態があまりに悪かったために使用をとりやめ、グラウンドを転々とすることになった。そのうちの1つは、選手たちのホテルから車で優に30分以上かかる場所だった。いきなりのハプニングだったが、長友はこう語った。
「移動が多くなるとか、グラウンドの状態が全然違うとか、そういう場面でナーバスにならないように声かけはしたいなと思います。環境をネガティブに捉えるのか、ポジティブに捉えるのか……前を向かせるような雰囲気にしていきたい」
モンテレイ合宿ではそんな言葉の通り、ウォーミングアップから戦術練習にいたるまで、グラウンドには長友の大きな声が響き渡っていた。
日本代表が優勝という目標に向かっているとはいえ、現時点で優勝候補の筆頭とはかけ離れている。すべてが上手く転がり、持てるポテンシャルを全て発揮して初めて、頂点に手が届くような位置につけている。
だからこそ、レバレッジをかける必要がある。そのとき、長友佑都は、日本代表の「最大化装置」となるのである。
取材・文/ミムラユウスケ

