事業の枠を超えて、1900社以上に無料のAMH検査を提供
──少子化対策の障壁となる「産みたい女性の負担」を軽減するために、「にしたんARTクリニック」ではどのような取り組みをされていますか。
夜間や土日の診察を実施するうえでの一番のハードルは、「遅くまで働きたくない」というスタッフ側の気持ちの部分。そこで、採用段階で理念に共感してくれる人に来てもらうことを重視しつつ、終電がなくなってもクリニック側でタクシー代を支給するなど、安心して働ける体制を整えることで、夜の採卵を実現しているのです。
また、患者さまの治療にともなう心理的な負担を軽くするために、カウンセリング制度も導入しています。初診ではいきなり診察に回すのではなく、ご夫婦の悩みや進みたい方向性を丁寧にすり合わせるところから始めます。
そのうえで継続的にフォローを行ない、たとえば旦那さんが不妊治療に前向きでない場合は、カウンセラーから「一度、旦那さんを連れてきてほしい」とお願いし、ご夫婦で向き合えるように時間をかけて説明することもありました。
さらに、通院するようになったら、公式LINEでつながってもらっています。診察室では何も思わなくても、家に帰ってから疑問や不安が出てきて、次の診察までやきもきしてしまうことが多いんですよね。
だからこそ、メッセージにもできるだけ早く対応し、悩みにはいつでも応えられるような体制を維持するよう努めています。
──不妊治療クリニックとして患者さまに寄り添う体制を整えることは、少子化対策への貢献になっていると感じます。一方で、少子化を解決するために、自ら外に向けてアクションを起こす取り組みもされていますか?
そうですね。僕らは現在、1,900社以上という規模で日本の企業に向けて無料のAMH検査を提供しています。AMH検査というのは、その時点で卵巣内に残っている卵胞数の目安を推定する検査で、不妊治療を始める際に欠かせない検査です。
この検査を企業には「福利厚生」として導入してもらっています。匿名で相談できる「不妊相談ホットライン」もセットで提供していて、検査結果をお伝えするカウンセリングのタイミングで、不妊にまつわる不安や質問を気軽に聞ける場をつくることで、女性側の意識が高まるようにしています。
これは「少子化を防ぐための一つの役割」を果たしていると感じていますし、各企業が会社単位でどんな取り組みをすべきかを考える場にもなっているでしょう。
──「不妊治療クリニック」の事業の枠を超えた取り組みとも言えますね。
実は僕自身には、「事業をやっている」という感覚はあまりないんですよ。とにかく社会の課題を少しでも解決するために、自分ができることをやりたいだけなんです。民間として先頭に立ち、大企業とも連携しながら、少子化の解消につながる取り組みをこれからも続けていきたいと思っています。
取材・文/福永太郎
脚注
※1 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei24/dl/02_kek.pdf

