世界的なコーヒーチェーンの米スターバックスが日本事業について、株式売却やIPOを含む選択肢を検討しているとの観測が浮上した。6月9日、米ブルームバーグ通信が報じたもので、4000~5000億円規模とみられている。
2025年には中国事業の株式の約6割を中国の投資会社に売却していた。国内外の投資ファンドや外食企業などが取得・出資することになれば、カフェ業界の再編の機運が高まる可能性がある。
値上げでも客離れが起きないスターバックスの強さ
スターバックス コーヒー ジャパンの2025年度の売上高は前年度比6%増の3401億円だった。店舗数は2116店舗。ドトールは1074店舗、コメダ珈琲店が1079店舗であり、総店舗数は国内カフェチェーン大手を大きく引き離している。
スターバックスはもともと高単価だったことに加え、コーヒー豆の高騰などの影響で値上げを余儀なくされている。定番の「ブリュードコーヒー」はトールサイズが440円、ドトールの「ブレンドコーヒー」はMサイズが330円だ。
競合より割高であっても、店舗での体験価値に重きを置くブランド戦略で客離れを抑えている点に最大の強みがある。
カフェチェーンは市場の成長余地がありそうなところもポイントだ。日本フードサービス協会の「市場動向調査」をもとに、2019年を100%とした場合の喫茶業態の売上推移を見ると、2025年は116.4%。この数字はファミリーレストランとほぼ同じであり、ディナーレストランよりも10ポイント高い。
インフレによって消費者の節約志向が高まっており、一部のレストランや業態では集客力が落ち始めている。しかし、カフェ業態は利用者の値上げ耐性が比較的高いことがうかがえるのだ。
カフェの形態は低価格・高回転型と高付加価値・低回転型の2極化が進行しているが、スターバックスは後者の代表格である。出店と価格改定によって売上成長はまだまだ見込めそうだ。
ただし、死角がないわけではない。資材価格の高騰によって開業コストが重くなっているのだ。タリーズコーヒージャパンは出店コストを抑制する目的で、フランチャイズ店舗数を約3割増やす計画を立てている。「珈琲館」を運営するC-Unitedもフランチャイズでの出店が中心だ。
スターバックスは一部特殊な商圏ではライセンス事業をしているが、基本的にはフランチャイズ展開はしていない。
運営スタッフの意識の高さが居心地の良いサービスの源泉になっていることを考えれば、フランチャイズのリスクは高い。スターバックスは直営店主体という難しさを内包している。
顧客の体験価値が失われたアメリカのスターバックス
日本では極めて好調なスターバックスだが、本国アメリカでは苦戦中だ。2026年1月から3月までの北米の純増店舗数は25店。前年同期間は90店舗を新規出店していた。
2026年は空港や病院、ホテルなどの直営店とは異なるライセンス店舗を19店舗閉鎖している。3月時点で北米の店舗数は1万8385店、アメリカは1万6944店となっている。
本国のスターバックスの営業利益は4割近く増加しているが、その背景には出店抑制によるコスト負担の軽減もある。
コロナ禍でアメリカのスターバックスはテイクアウトやドライブスルーの需要に最適化するようになった。それと同時にデジタル化による効率的な店舗運営を進めるようになる。デリバリー専門店も増やしていった。
しかし、コロナが収束して急速なインフレが進行すると、体験価値が薄れたスターバックスの相対的な割高感が際立つようになった。中間層や低所得者層を中心とした節約志向の高まりもあり、深刻な客離れに見舞われるようになる。
2022年9月に次期CEOに指名され、2023年3月にCEOに就任したラクスマン・ナラシムハン氏は原材料高を価格に転嫁する方針をとっていたが、店舗の売上が低迷すると割引キャンペーンを実施。ところが競合のカフェチェーンもこれに追随して値引き合戦となり、差別化を図ることができなかった。
スターバックスは最大のセールスポイントである顧客の体験価値を自ら薄めてしまい、競合のカフェチェーンと同様に価格で戦う状態になってしまったのだ。
ナラシムハン氏は約1年半ほどで早くも退任。後任は外食業界の再建請負人として名高いブライアン・ニコル氏が務めることになった。
ニコル氏は業績不振に苦しんでいたファストフード大手「タコベル」や、大腸菌による集団食中毒でブランドが毀損した「チポトレ・メキシカン・グリル」の経営を再建した人物としてよく知られている。
スターバックスは大規模な店舗再編を発表。飲食スペースがない店舗の多くを閉鎖し、座席の改善やコンセントを増設して居心地の良い店舗への転換を進めている。
また、スタッフに週給制を導入し、チップ制度の拡充などインセンティブの強化も図った。カップに油性ペンで書くメッセージ文化も復活させている。
顧客の体験価値を高めるため、組織の構造的な改革を進めているのだ。

