
私たちが何気なく歩いている地面の下には、目には見えない巨大な「生きたインフラ」が広がっています。
それは植物の根と結びつき、水や栄養を運ぶ「菌類のネットワーク」です。
今回、地下ネットワーク保護協会(SPUN)らの国際研究チームは、土壌中に広がる「アーバスキュラー菌根菌(AM菌)」のネットワークを、世界規模で初めて地図化しました。
その推定によると、地球の表土上部15センチメートルには、合計で約110京キロメートルものAM菌糸ネットワークが存在するといいます。
これは地球から太陽までの距離を7億回以上もたどれるほどの長さだといいます。
研究成果は2026年6月11日付で科学雑誌『Science』に掲載されました。
目次
- 地下には植物を支える「菌類ネットワーク」がある
- 1万6000本以上の土壌データから、地下ネットワークの地図を作った
- 最も濃い「菌類の森」はどこに?
地下には植物を支える「菌類ネットワーク」がある

植物は地面に根を張って生きています。
しかし、根だけで土の中すべてを探れるわけではありません。
そこで重要になるのが「アーバスキュラー菌根菌(AM菌)」と呼ばれる菌類です。
AM菌は、菌糸と呼ばれる細い糸状の構造を地中に伸ばし、植物の根とつながります。
この菌糸は、人間の髪の毛よりもはるかに細く、土のすき間を縫うように広がっていきます。
そして植物に、水やリン、窒素などの栄養を届けます。
一方、植物は光合成によって作った炭素を菌類に渡します。
つまりAM菌と植物は、地下で「栄養と炭素の取引」をしているのです。
この関係は非常に古く、植物が陸上へ進出していく過程でも重要な役割を果たしたと考えられています。
現在でも、地球上の植物種のおよそ70%が、こうした菌根菌との共生関係を結んでいます。
たとえるなら、植物の根は自宅の玄関です。
そして菌糸ネットワークは、その先に広がる道路網や配管のようなものです。
根だけでは届かない遠くの資源を、菌類が細い糸の道を使って運んでくれるのです。
しかし、このネットワークは地面の中に隠れているため、これまで「どこに、どれくらい存在するのか」はよく分かっていませんでした。
菌類が重要であることは分かっていても、地球全体で見たときの規模は、ほとんど見えないままだったのです。
1万6000本以上の土壌データから、地下ネットワークの地図を作った
今回の研究は、1カ所の森や草原を調べたものではありません。
研究チームは、過去322件の研究から得られた世界各地の1万6000本以上の土壌コアのデータを集めました。
そこには、森林、草原、湿地、農地、砂漠、ツンドラなど、さまざまな環境の土壌が含まれています。
これらのデータをもとに、まずチームは、どのような気候、土壌化学、植生の条件でAM菌糸が多くなるのかを調査。
次に、機械学習を使って、直接サンプルが採られていない地域についても、菌糸ネットワークの密度を予測しました。
さらに重要なのが、菌糸の「太さ」を測る作業です。
菌糸の長さだけでは、全体の重さを計算できません。
細い糸が長く伸びているのか、太い糸が密集しているのかによって、バイオマスは変わるからです。
そこでチームは、ロボット画像解析を使って、30万本以上の生きたAM菌糸を測定。
この情報を組み合わせることで、菌糸ネットワークの長さだけでなく、その総バイオマスも推定できるようになりました。
その結果、地球の表土上部15センチメートルには、約110京キロメートルのAM菌糸ネットワークが存在すると推定されたのです。
【予測された菌根ネットワークの世界地図がこちら】
その質量は、炭素量として約3億トンに達すると推定されています。
これは生きている人類全体の重さのおよそ4〜6倍に相当する規模です。
しかもこのネットワークは、単に地中に眠っているだけではありません。
植物から地下生態系へと炭素を運び、水や栄養の流れにも関わっています。
研究チームは、AM菌ネットワークが毎年およそ40億トンCO2換算の炭素を土壌へ運ぶ経路になっていると推定しています。
見えない菌糸の糸は、地球の炭素循環を支える巨大な通路でもあったのです。

