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「ミニ宇宙」内部で時間の始まりの観測に成功──時間が「湧き出す」仕組みが判明

「ミニ宇宙」内部で時間の始まりの観測に成功──時間が「湧き出す」仕組みが判明

「ミニ宇宙」内部で時間の始まりの観測に成功──時間が「湧き出す」仕組みが判明
「ミニ宇宙」内部で時間の始まりの観測に成功──時間が「湧き出す」仕組みが判明 / Credit:Canva

イギリスのバーミンガム大学(UoB)のジョヴァンニ・バロンティーニ教授が率いる研究によって、研究室で作られた「ミニ宇宙」の中で、内部の変化だけから時間の流れが湧き出てくることが実験的に示されました。

研究では、このミニ宇宙で宇宙の始まり「ビッグバン」と終わり「ビッグクランチ」に似た現象も観察され、ビッグバンの前についての興味深い洞察も示されました。

バロンティーニ教授は「時間を内部の変化として定義できる、条件を制御した実験で初めての証拠」と述べています。

では、私たちが毎日感じているこの時間は、いったい宇宙のどこから来たのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年6月11日に『Physical Review Research』にて発表されました。

目次

  • 宇宙の設計図から「時間」が抜け落ちている
  • 「ミニ宇宙」から時間がうまれる瞬間を観測
  • 「ミニ宇宙」で宇宙の始まりと終わりを再現
  • 「始まりの前」に時間はなかった

宇宙の設計図から「時間」が抜け落ちている

宇宙の設計図から「時間」が抜け落ちている
宇宙の設計図から「時間」が抜け落ちている / Credit:Canva

時間はなぜ流れるのか。そして、なぜ過去から未来へという一方向にしか進まないのか。

あまりにも当たり前すぎて、普段は問うことすらしません。朝が来て夜になり、昨日には戻れない。私たちは日々の経験としてそれを知っています。

ところが物理学の立場から見ると、この「当たり前」はまったく当たり前ではありません。

物理法則の多くは、時間の方向を区別しないのです。

たとえば振り子が揺れている映像を逆再生してみてください。右に振れてから左に振れる──逆再生しても、左に振れてから右に振れるだけです。

どちらが「正しい方向」なのかを、法則そのものは教えてくれません。

ボールを落としたときにどれだけ下に行ってしまうかの距離は重力に時間の2乗を掛け算したもの「重力×t²」によって決まります<h = ½ × g × t²>。

そのため一見すると普通の時間が必要に思えますが、tの右上にある「2乗する」という部分がそれを否定します。

tの中身がプラスでもマイナスでもt²の値は同じです。

方程式にとって、時間が前(プラス)に進んでいるのか後ろ(マイナス)に戻っているのかは、文字通り「同じこと」なのです。

もちろんこれは話をごく単純にした例ですが、本質的な構図は変わりません。

ニュートン力学から電磁気学まで、物理学の基本方程式のほとんどは時間を逆転させても同じ形を保ちます。

私たちが当然と思っている「時間は一方向にしか進まない」という性質は、基本的な物理法則から抜け落ちているのです。

しかもこの問題は量子の世界に及びます。

通常の量子力学の方程式には時間を現わす「t」がしっかり組み込まれています<iℏ ∂Ψ(x, t)/∂t = Ĥ Ψ(x, t)>。

ですが宇宙全体をひとつの量子力学の方程式で記述したものには、宇宙の大きさを表す部分(a)や物質の状態を表す部分(φ)はあるものの、時間をあらわす「t」はどこにもないのです<Ĥ(a, φ) Ψ(a, φ) = 0>。

これは抽象的な数学の話ではなく、現代物理学が正面から突きつけられている問題です。

もし宇宙の最も根本的な記述に時間が含まれていないなら、私たちが毎日感じている「時間の流れ」は、いったいどこから来ているのでしょうか。

そこで今回研究者は、時間は宇宙の「外側」にある見えない時計が刻んでいるのではなく、宇宙の「内側」にある物質同士の関わり合いや変化の中から、自然に湧き出てくるのではないか――つまり時間の「種」は物質同士の関わり合いの中から生まれ、物質が変化するたびに時間が一歩ずつ生み出されていると考えました。

バロンティーニ教授の実験は、この仮説を実験室で検証しようとした、世界でも数少ない試みのひとつです。

しかし、そんなことをどうやって確かめたのでしょうか?

「ミニ宇宙」から時間がうまれる瞬間を観測

「ミニ宇宙」から時間がうまれる瞬間を観測
「ミニ宇宙」から時間がうまれる瞬間を観測 / ミニ宇宙を上から撮影した連続写真です。暖色(赤〜黄色)が濃い部分ほど原子が多く集まっていることを示しています。右側の曲線のようなものはミニ宇宙の「地形図」ともいうべきものですCredit: Giovanni Barontini / Physical Review Research(2026)

その手がかりになったのが「エントロピー」でした。

先ほど、物理法則の多くは時間の方向を区別しないと書きました。

しかし実は物理学の中にたったひとつだけ、時間の方向を教えてくれるものがあります。

それは「この宇宙に埋め込まれた基本法則」で、それは「固まっていたものが散り散りになっていく」という現象です。

たとえば空気中に1カ所だけ酸素が特に濃いポイントを設定すると、時間と共にそこにあった酸素は周りの空間に広がっていきます。

「そんなの当たり前」と思うかもしれませんが、物理学者はこの現象が取るに足らない常識ではなく、私たちの宇宙に埋め込まれたどうしようもない基本法則であると考えています。

「当たり前をこれ見よがしにあげつらって基本法則と呼ぶ」という態度こそが、物理学の根底に流れているスタンスだからです。

そして物理学者は散らばりの度合いを「エントロピー」という数値で表現します。

そして私たちの宇宙では、時間はこの「散らかる方向」に沿って流れています。

そのため「時間の流れの正体は、エントロピーの変化そのものなのだ」という考えが有力視されています。

時間の流れを測る唯一の物差しとも言えるでしょう。

そして理論物理学者たちは何十年前から「宇宙を分ければ時間が生まれる」と考えていました。

宇宙をコッチとアッチに別けて、コッチの何かがアッチに散らばり、その度合いを現わす数値「エントロピー」が変化する――それこそが宇宙に時間が出現する第一歩だという考え方です。

そこで今回研究者は、それを実験的に確かめ、宇宙の分割が本当に時間が湧き出てくるか(エントロピーが変化するか)を調べることにしました。

といっても、現代のように巨大になってしまった宇宙を別けるのは不可能です。

そこで研究者は、外部の影響をいっさい受けない「密封された小宇宙」を構築することを目指しました。

外から時計の音が聞こえてくる部屋では、時間が中から生まれたのか外から持ち込まれたのか区別がつかないからです。

そして外部からは隔絶された中に、ほぼ絶対零度まで冷やされた約2万4000個のルビジウム原子を配置しました。

絶対零度近くまで冷やされた原子は熱による雑音をほぼ失い、量子力学的なふるまいが前面に出る状態になります。

こうして、外部の時計を持たない、しかも量子力学の法則に従うミニ宇宙が完成しました。

ただこの量子的な塊は全体として1つの状態しかとらないという性質を持ちます。

そのため散らばり具合を調べることは困難です。

そこで研究者は光でできた薄い仕切り(光障壁)を使って、この量子的な塊をコッチとアッチに分割してみました。

もし時間が本当に物質の変化から自然に湧き出るものなら、この分割によって、ミニ宇宙内部にも独自の時間構造──つまりエントロピーの変化や時間の始まりや終わりのような現象がおこるかもしれません。

しかし研究者が塊を調べたところ、ミニ宇宙全体のエントロピーは誤差のレベルでしか変わっておらず最初から最後まで同じでした。

ところが視点を変えて、コッチ側とアッチ側を別々に見てみると、エントロピーが「行き来」していたことがわかりました。

見える側と見えない側のあいだで原子が行き来すると、それに伴ってエントロピーが片方の部屋からもう片方の部屋へ移動します。全体の合計は一定のまま、配分だけが変化し続けていたわけです。

配分の変化が、エントロピーを介して時間を駆動していたのです。

時間が「生まれる」ために必要だったのは、宇宙全体のエントロピーが増えることではありませんでした。必要だったのは、宇宙を2つに分け、そのあいだでエントロピーが行き来することだったのです。

その行き来が始まった瞬間、「時間の流れ」が立ち現れるのです。

これにより、何十年前から理論的に予測されていた「宇宙を分ければ時間が生まれる」という現象を、ミニ宇宙で実験的に示すことに成功しました。

ここまで来ると、記事の冒頭で紹介した「宇宙の設計図に時間が載っていない」問題が、違う景色を帯びてきます。

宇宙全体を量子的な状態として考えると、変化はなく、だから時間もありません。

しかし、宇宙を「コッチ側」と「アッチ側」に分けたらどうなるでしょうか。

ここで重要なのは、コッチの住人にとっての「時間」は、エントロピーの変化そのものということです。

変化が激しければ、住人にとって「たくさんの出来事が起きた」ことになり、時間が速く流れたと感じます。

エントロピーの変化が「時間を映し出している」のではなく、エントロピーの変化が時間そのものなのです。

もし「本当の時間」がどこか別の場所に存在していて、エントロピーの変化はその影にすぎないのだとしたら、影だけで物理学が動くのは不自然です。影だけで完全に動くということは、影こそが本体だということを意味しています。

バロンティーニ教授はプレスリリースで「この研究は、”時間”をシステム内部の変化として定義できるという、条件を制御した実験における最初の実験的証拠を提供するものです。量子重力における時間の本質について、従来の時間と同じように有効に動態を記述できる新たな知見をもたらすと考えています」と述べています。

時間は宇宙の基本装備ではなく、宇宙が自分自身を「コッチ側」と「アッチ側」に分けたときに、その副産物として生まれるもの──実験室のミニ宇宙は、その可能性を明確に示しました。

そして驚くべきことに、この「時間の誕生」は、もうひとつの壮大な出来事と分かちがたく結びついていました。

観測できない領域から観測できる領域へ原子が越境してきた瞬間──エントロピーの交換が始まり時間が産声をあげたまさにその瞬間が、同時にミニ宇宙の「ビッグバン」でもあったのです。

配信元: ナゾロジー

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