同級生の顔を見た瞬間
「おっ、久しぶり」。そう声をかけてきたのは、学生時代にいつも僕の前を歩いていた同級生でした。成績も人付き合いも就職先も、何もかも僕より上で、隣にいるだけで自分が小さく見える相手です。社会人になってからは会う機会もなく、その引け目も忘れていたつもりでした。けれど顔を見た途端、あの頃の感覚が戻ってきます。彼の視線が僕の隣へ向いたとき、僕の中の何かが身構えていたのだと思います。
「彼女さん?」に、言えなかったこと
彼が恋人のほうを見て、「もしかして、彼女さん?」と聞いてきました。本当ならすぐに、そうだと答えればよかっただけです。けれど僕は、ほんの少し間を置いて、「いや、ちょっとした知り合いで」と口にしていました。隣で彼女が、うなずきかけたまま動きを止めたのが、横目に見えました。この相手にだけは、自分の幸せを品定めされたくない。詮索されて、また何かを比べられたくない。とっさにそう考えてしまったのです。
