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古代リスはマンモスの肉を食べていたようだ――うんち化石が明かす食事情

古代リスはマンモスの肉を食べていたようだ――うんち化石が明かす食事情

うんちは骨より優秀だった——DNA保存力の大逆転

うんちは骨より優秀だった——DNA保存力の大逆転
うんちは骨より優秀だった——DNA保存力の大逆転 / Credit:Scott Cocker

ここまでの話だけでも十分に驚きですが、この研究にはもう一つ、科学の常識を覆す発見が含まれています。

古代のDNAを研究する方法として、これまで主流だったのは「骨」と「堆積物(土)」の2つです。

骨からは、その個体のDNAを高い濃度で取り出すことができます。

ただし、取れる情報は基本的にその1種類の生き物に限られます。

一方、堆積物(地層の土)には環境中のさまざまな生き物のDNAが少しずつ含まれているため、生態系全体を広く薄く見渡すのに向いています。

つまり、骨は「狭く深い」、堆積物は「広く浅い」という、それぞれ一長一短があったのです。

では、うんち化石はどうなのでしょうか?

研究チームは、同じカナダ北西部やアラスカの永久凍土から回収された骨・堆積物・糞化石のDNA保存量を比較しました。

単純に標的となるDNAの割合を見ると、骨が最も高く、次いで糞化石、最後が堆積物という順番になります。

骨には特定の個体のDNAが凝縮されているので、これは当然の結果です。

ところが、「同じ重さの試料あたり」で比較すると、結果はひっくり返りました。

わずか0.1グラムのうんち化石から回収できる動植物のDNAの量は、同じ量の骨や堆積物をはるかに上回っていたのです。

しかも糞化石は、骨のように単一種の情報しか持たない試料とは違い、堆積物に匹敵する生物多様性を記録しています。

つまり糞化石は、DNAの濃さでは骨に近い強みを示し、多様性では堆積物に近い広がりを持っていたのです。

考えてみれば理にかなっています。

フンには、宿主(リス)自身のDNAが高濃度で含まれるのと同時に、食べた植物、獲物の動物、腸内の細菌、体内の寄生虫まで——生態系の断面図が一粒の中に凝縮されて保存されています。

骨にも堆積物にもできない芸当です。

ここで一つ、当然浮かぶ疑問があります。

「何万年も土の中に埋まっていたのだから、周りの土のDNAがフンの中に染み込んだだけでは?」という疑問です。

研究チームはこの点を、微生物(バイ菌)の分析によって検証しました。

もしフンの外側から周囲の土のDNAが大量に染み込んでいたら、フンの中の微生物と、周囲の永久凍土の微生物は似通った顔ぶれになるはずです。

ところが実際に比較してみると、フンの中の微生物と周辺の永久凍土堆積物の微生物は、はっきりと異なる種類で構成されていました。

フンはフン、土は土——それぞれが独自の微生物群集を維持していたのです。

言ってみればこのフンは、外からの大きな染み込みは受けにくい、小さな保存容器のような存在だったのです。

では、このフンを残したリスは、いったいどんな存在だったのでしょうか?

そのリスは、何者だったのか

そのリスは、何者だったのか
そのリスは、何者だったのか / 橙色の六角形(糞石の発見地)と、最も近縁な現生種の分布地。赤い点はナガオジリス(U. undulatus)の分布域を表します。注目すべきは、地図の中央付近にある橙色の六角形——70万年前の糞石が見つかったクロンダイク地域です。このフンを残したリスに最も近い親戚(赤い点のナガオジリス)が、ベーリング海峡を挟んだはるか遠くのシベリア・モンゴル・中国に住んでいるという事実が、この地図一枚から読み取れます。Credit: Murchie et al., Nature Communications (2026)

ここまで「リスのフン」の分析結果を追ってきましたが、このフンを出した「リス本人」は一体何者だったのでしょうか?

研究が始まった当初、研究者たちは今も同地域に生息するホッキョクジリス(Urocitellus parryii)と同じ種だと考えていました。

これまでこの地域で見つかった氷河期のジリスの化石は、ほぼすべて現生のホッキョクジリスの仲間として整理されてきたからです。

実際、骨格もそっくりでした。

ところがDNAを詳しく調べてみると、まったく違う姿が浮かび上がってきました。

3万年前のサンプルですら、現生のホッキョクジリスの「主流の系統」とは別の枝に属していたのです。

8万年前のサンプルも同じでした。

つまり、この地域の氷河期のリスたちは、この地域の北部や南部に今住んでいるホッキョクジリス(主流系統)とは遺伝的には、明らかに別の枝に属していたということです。

マーチー氏は「私たちが同じ種だと思い込んでいたものは、実は今いる種とは違うようなのです。どこかの時点で、集団の入れ替わりが起きていたのです」と述べています。

では70万年前のリスは誰に近いかというと——なんと、今のシベリア、モンゴル、中国、カザフスタンに住んでいるナガオジリス(Urocitellus undulatus)に最も近い、独自の系統でした。

北極から見下ろせば、アメリカ大陸のカナダ北西部とユーラシア大陸のシベリアはベーリング海峡を挟んだ隣同士です。

氷河期にはこの海峡が陸橋でつながっていたこともありました。

研究チームの計算によれば、この70万年前のリスはナガオジリスとも約110万年前に分かれた、独自の枝(系統樹の枝)を歩んでいた集団だった可能性が示されています。

マーチー氏は「進化系統樹の中で、独自の枝に位置しているんです。最も近い親戚は、今の中国にいるリスなんですよ」と述べています。

70万年前のフンの主は、現在は遠方に親戚だけがいるだけで、この世界のどこにも、もういないリスだったのです。

彼らが消えてしまったのはなぜなのでしょうか?

鍵を握るのは、氷河期と間氷期の繰り返しです。

更新世の地球は、数万年〜十数万年の周期で「寒い時代(氷河期)」と「暖かい時代(間氷期)」を何度も往復していました。

そしてカナタ北西部のジリスの巣穴記録は、とくに寒冷期に集中して見つかります。

理由は永久凍土にあります。

ジリスが巣穴を掘るには、地面の表面付近が季節的に溶ける「活動層」が十分に厚い必要があります(約1メートル)。

ただし、永久凍土そのものは固すぎて巣穴掘りの妨げになります。

つまりジリスは「柔らかな層がそれなりに厚く、その下に永久凍土がある」という絶妙なバランスの土地を必要としているのです。

著者たちは、暖かい時代にジリスがいなくなり、次の寒い時代が来たときに周辺地域から別の集団が入り直した可能性を論じています。

マーチー氏は、この時間スケールについてこう語っています。

「このタイムスケールには謙虚な気持ちにさせられます。サンプルの中には、私たちの種よりも古いものがあるのです。現代的な体形のホモ・サピエンスが登場したのはおよそ30万年前ですが、最も古いサンプルは約70万年前のものです。つまりこのリスたちは、私たちのような人間が存在するはるか以前から、生き、集め、食べ、貯蔵し、そしてこの小さな生物学的アーカイブを残していたのです」

氷河期と間氷期を繰り返す地球の気候変動の中で、北極のリスは何度も顔ぶれを変えながら、その時代その時代の風景の一部となっていました。

そして私たちはそのことを70万年の時を超えて一粒のフンから知ることになったのです。

参考文献

Ancient ground squirrel droppings reveal rich details about evolutionary history of the Arctic
https://news.mcmaster.ca/ancient-ground-squirrel-droppings-dating-back-700000-years-reveal-rich-details-about-evolutionary-history-of-the-arctic/?utm_source=chatgpt.com

元論文

Ground squirrel coprolites preserve complex archives of ancient environmental DNA over 700,000 years
https://doi.org/10.1038/s41467-026-72977-6

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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