彼女の沈黙が教えてくれたこと
見積もりが終わってからも、彼女の口数は少ないままでした。優しい彼女が何も言わないことが、かえって僕には応えました。費用を抑えたかったのは本当です。心配をかけたくなかったのも本当です。
けれど、よくよく考えてみると、僕は自分の見栄も守ろうとしていたのだと気づきました。お金に余裕がないと知られたくない。頼りない男だと思われたくない。その弱さを隠すために、いちばん大切にすべき彼女の荷物を、軽いものとして扱ってしまった。守りたかったのは彼女ではなく、自分のつまらないプライドだったのかもしれません。
そして...
あの一言を、なかったことにはできません。でも、このまま黙っているのも違うと思いました。だから僕は、引っ越しの日を待たずに、彼女へ正直に話そうと決めました。
費用のこと、見栄を張ってしまったこと、彼女の荷物を口実にしてしまったこと。全部、僕の弱さでした。彼女の荷物が多いのは、それだけ彼女が大切にしてきたものがたくさんあるということです。本当は、その全部を新しい部屋へ連れていきたい。少なめだなんて、二度と言いません。この前、彼女の部屋で本をまとめた箱を見つけました。持ち上げてみると、ずっしりと重い。きっと彼女が、ひとりで運ぼうとしていた箱です。
次に段ボールを運ぶときは、このいちばん重い箱を、僕が真っ先に持ちます。彼女の大切なものごと抱えて、新しい部屋へ。二人の暮らしは、きっとそこから本当に始まるはずだから。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
