名前のない差し入れと、思い浮かんだ顔
名前のない差し入れ。でも、微糖の缶コーヒーで、すぐ彼女のことが浮かびました。同じ部署の同僚で、最近よく目が合う人。以前、徹夜続きでこの缶コーヒーにはまっていると話したことがあって、それを覚えてくれていたのかもしれない。そう思うと、たちまち落ち着かなくなりました。
けれど、すぐに別の声も浮かびました。自惚れかもしれない。たまたま誰かが置いただけかもしれない。確かめる勇気が、僕にはありませんでした。
とっさに、僕は逃げた
缶コーヒーを手に、誰だろうとあたりを見回したとき、ちょうどお菓子をよく配ってくれる先輩が前を通りました。その瞬間、僕はほっとしている自分に気づきました。これで確かめずに済む。彼女に、君が置いたのかと聞いて、もし違ったらと思うと怖かったのです。だから僕は明るい声で言いました。
「先輩、差し入れありがとうございます」
先輩は「いえいえ、いつものことですから」と笑っていました。そのうえ僕は、いらないひとことまで付け足したのです。
「こういう気遣いがさらっとできる人って、いいですよね」
