●二年の出遅れと機能遅延がもたらす「様子見」の空気
ただし、他社に比べてタイミングの悪さと実装の遅れも、話題性の低迷に拍車をかけたのだと思います。ChatGPTが世界を震撼させたのは22年末でした。そこから世界中で凄まじい投資と開発競争が行われ、市場が十分に温まり、人々が生成AIにやや慣れてきた24年半ばになって、ようやくAppleはApple Intelligenceを発表しました。およそ2年の遅れです(24年WWDCで発表)。
この2年の間に、市場の「AIに対する評価基準」は、完全に他社によって形作られてしまいました。今では、私の世代(60代後半)でも、生成AIといえばChatGPTかGeminiを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。さらに追い打ちをかけたのが、目玉とされた「Siriの大幅な強化」や、システム全体の多言語対応などが段階的に先送りされたことです。ユーザーの側には、「発表はされたものの、自分の手元ではまだフル機能が使えない」「約束された未来がなかなか来ない」というもどかしさがありました。市場の反応は、「驚嘆」から「ひとまず様子見」へと変わったように感じます。
●歴史は繰り返す――Appleの「第二波型」時間差攻撃!?
歴史を振り返れば、Appleは、「最初に新しい技術を発明してブームを作る」タイプではあまりなかったように思います。むしろ真骨頂は、「他社が作った市場の混沌を、圧倒的なユーザー体験(UX)で塗り替え、最後に果実を総取りする」という、いわば「第二波型」の成長にあるのではないでしょうか。
かつて、MP3プレーヤー市場を開拓したのは他社でしたが、Appleは「iPod」と「iTunes」という優れたエコシステムで市場を支配しました。スマートフォンも同様で、BlackBerryやWindows Mobileが先行していた市場に、Appleは「iPhone」という、直感的で洗練されたタッチインターフェースを持ち込むことで、携帯電話の世界を根底から変えてしまいました。そう考えると、生成AIの世界にも、同じ構図が当てはまるのかもしれません。
現在の生成AI市場は、第1フェーズである「AIという高度な道具を使う(ChatGPTなど)」、そして第2フェーズである「AIを検索やビジネスツールに組み込む(GoogleやMicrosoftなど)」という段階にあります。ユーザーはまだ、AIを使うために一定の「ITリテラシー」や「プロンプト(指示文)の工夫」を求められています。
これに対してAppleが狙っているのは、その先の第3フェーズ、すなわち「AIが空気のように存在する環境(インフラ)になる」という未来ではないでしょうか。高度なプロンプトを使いこなせるのは、いわゆるギーク(技術愛好家)と呼ばれる少数派です。もちろん、生成AIは今後、仕事や日常生活の中でさらに普及していくと思います。
しかし、デバイスを開けば、自分が意識することなくAIが動いている。「OSのレイヤー」という最も深い部分から囲い込みにいく発想です。数億人、数十億人が毎日手にするiPhoneやMacのOSそのものがAI化されたとき、ユーザーは他社のAIアプリをわざわざ起動することすら忘れるかもしれません。後から一気に「体験」で勝つパターンの可能性が、ここには隠されているのではないでしょうか。

