NHKが大河ドラマ「軍師官兵衛」などの作品をNetflixで扱うことに合意し、6月22日から配信がスタートした。広告表示を巡る問題から一時提供を停止していたが、2年半ぶりの再開となった。
この取り組みについては、テレビ東京の吉次弘志社長が6月4日の定例会見で、「少し自制的であるべき」とNHKを牽制するような発言をしている。賛否両論を巻き起こしているが、NHKが次のステージに移るために必要不可欠なものでもある。
6年ぶりに受信料の未収数は減少
6月23日、NHKは2025年度決算を発表した。NHK単体の事業収入は0.1%増加している。ごくわずかな増収だが、NHKにとってその意味合いは大きい。
NHKは2023年10月からの受信料の値下げの影響もあり、減収が続いていた。2025年度も1.5%ほどの減収を見込んでいたが、増収での着地である。受信料収入の減少幅が抑えられたことに加え、その他事業収入・財務収入が伸びたことが増収につながった。
NHKは2025年10月に受信料特別対策センターを設置。督促・民事手続きを強化し、長期間支払っていない世帯や事業所に対して民事訴訟などの法的手続きを進めた。2026年3月には北海道と福岡県のホテル運営会社に対し、合計2220万円の支払いを求めて提訴。NHKが事業所を相手に受信料の支払いを求める民事訴訟を起こすのは7年ぶりだ。
こうした強気の取り組みが奏功して、2025年度の受信料の未収数は174万件で、3000件減少した。未収数が減少に転じたのは実に6年ぶりである。NHKは受信料収入がほぼ横ばいになったところに、その他の事業収入が加わったことで増収へと持ち込むことができた。
いっぽう、2025年度はNHK単体で318億円の赤字を出した。前年の449億円の赤字から131億円圧縮しているものの、黒字化にはほど遠い。NHKは中期経営計画にて事業支出改革を掲げ、2027年度の事業支出を2023年度比で1000億円削減する目標を掲げている。しかし、その過程にある2025年度の支出額は計画を上回っている。
NHK経営委員会の古賀信行委員長は6月23日の会見後の取材で、「本当は値上げの時期だと個人的に思う」と発言。「だが、そう安易に値上げとは、なかなか言えない状況だ」と付け加えた。物価高の中でコスト削減を進めることの難しさが滲んだ発言だ。
つまり、NHKは受信料の督促強化を徹底し、未収数の減少へと持ち込んだ。しかし、契約対象となる世帯数が頭打ちの状況で、大幅な増収は期待ができない。国民から値上げの理解が得られるとも考えづらい。コスト削減策を確実に進めているものの、物価高が鮮明になった中では施策も限られる。そんな状況に置かれているのだ。
必然的に、コンテンツ販売の副次収入による増収に活路を求めることになる。
民放とは桁違いの番組制作費を投じているが…
ただ、テレビ東京の吉次弘志社長は、NHKが特殊法人で民間企業とはコンテンツの作り方も資金の投じ方も根本的に違うことを強調。そのNHKが海外の収益性を重視するNetflixのようなプラットフォームに対して、民間企業と同じようにコンテンツを提供することは自制的であるべきだとの発言をした。
民間の放送会社は営業努力によってスポンサーを獲得し、制作費を捻出。苛烈な視聴率競争を勝ち抜いて次のスポンサーを見つけるという経営努力を重ねている。いっぽう、NHKは安定的かつ莫大な受信料収入を得て番組を作っている。
視聴率は重要な指標だが、NHKにとっては組織の存続を左右するかと言えばそうでもない。それだけにNHKが民放と同じようにコンテンツを販売して稼ぐことには若干の違和感もあるかもしれない。
にもかかわらず、巨額の番組制作費を投じているからこそ、コンテンツを流通させる意義も大きい。
NHKは2025年度の番組制作費が2997億円だった。日本テレビ放送網は895億円である。NHKは全国ネットワークでニュースを放送しているが、ニュース番組の制作費は933億円だ。それを差し引いても2000億円以上がドラマやドキュメンタリーなどの番組制作に投じられている。
しかし、コンテンツ販売などによる副次収入はNHK単体で78億円しかない。協会全体でも175億円である。日本テレビ放送網は番組販売収入が109億円だ。莫大な番組制作費をかけているNHKが、機会損失をしているようにも見える。コンテンツの再利用を進めなければ、支払った受信料が無駄にもなりかねない。
視聴者の中には、受信料を払って作ったコンテンツをプラットフォームへ販売することや、収入を得ているにもかかわらず受信料が据え置きであることに反発する声もあるようだ。とはいえ、NHKはすでにドラマやドキュメンタリーなどをDVDとして販売している。Netflixのようなプラットフォームに配信することは、流通経路が変化しただけに過ぎないと見ることもできるのだ。

